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安価な旅

金は無いが旅行に行きたい。
格安で泊まれて温泉があれば良い。食事はご馳走や珍味は不要、腹が満たされれば良い。
とりあえず検索してみた。探せばあるものだ。
ツアーではない。個人で直接その旅館に出向けば二泊三日がタダになるというもの。但し書きを読むと血液型がABの者限定とあった。
私はAB型。
私はその旅館に電話し、今からでもどうぞと了承された。

その旅館は私の住む街から1時間ほどの街ハズレにあった。かなりの老舗のようだ。

帳場に行く。台帳に記入する前に医務室のような部屋に通された。

血液型の検査のためである事はわかっていた。当然だ。

看護師が白衣を着て現れた。
彼女はニッコリ微笑む。
「血液、少し頂戴いたしますね」
「あ、はい」

私は腕をまくる。
チューブをつけられ、脱脂綿で消毒されて、注射針が‥‥。
その後の記憶が無い。


私は客室で丸二日の眠りから目覚めた。旅館での最初で最後の食事をとり、最初で最後の温泉にフラフラと向かったのだった。


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自分で書きながらも、主人公を可哀想に思った。ごめんね、今度は優しい人の小説の主人公になってね、みたいな。