港のマリー 青ブラ文学部
港のマリーと噂されたのは昔の事。そのことを知っているダチももういない。
「港々に女がいてさ」そう言ってたアイツもどこかの海で藻屑になっているんだろうよ。私に待っていてくれと言っていたのも、嘘か誠かもわからない。いい加減な男だったのさ。
私は歳を重ねた。この港のあるこの街を出ることも無いままに、あっという間に過ぎていく時をただ眺めていただけ。
最近、早朝の港を毎朝歩く。昔の思い出をひとつひとつ捨てていくために。
私は、もはやマリーではない。ただの木田真理子。なんて平凡な名前だろう。
マリーの時は楽しかったのか。そうではない。無理をしていた。結構苦しかった。それでもマリーであった時は、自分を支えることができたと思う。
そしてそれが最悪の終わり方をしないで済んだのだ。マリーは私の命の恩人ともいえる。自分で言うのも変だが。
私は桟橋を歩く。港のマリーの最後の置き土産を捨てるために。
最後のタバコに火をつけた。
孫が生まれるのだからね。
了 410文字
『橋』に続いて参加させていただきます。
山根あきらさん、よろしくお願いいたします。