小さなオルゴール 青ブラ文学部
おばあさんが小さなオルゴールを開けたのは久しぶりでした。
オルゴールは鳴りません。もうずっと前からです。
修理に出すのは嫌でした。
このオルゴールを作ってくれたのは、亡くなったおじいさんでしたから。
修理に出すと、おじいさんのオルゴールではなくなってしまう気がするのです。
オルゴールは宝石箱でもありました。
確かにおばあさんの宝物が入れてありました。それは宝石なんかではありません。
おじいさんとおばあさんの結婚式の時の写真。少しセピア色に変色していましたが、二人の愛と、二人のたくさんの思い出の証のように思えました。いつ見ても二人は笑顔です。
もう一つは二人の結婚指輪。おじいさんが亡くなるまでは二人の指に光っていました。今では二つの指輪は赤いリボンで結ばれて、オルゴールの中で肩を寄せ合っています。たくさんの思い出話を、二人の代わりに語り合っているのだと思えました。
おばあさんはオルゴールが壊れる前の音色を思い出していました。
そして、そのメロディを口ずさみます。
二人でも一緒に歌いました。おばあさんの一番好きな歌です。
「……、ラリラりラリラ しらべはアマリリス」
おばあさんはおじいさんと一緒に歌っている気がしていました。
歌い終わるとおばあさんは、ほほ笑みながらそっとオルゴールの蓋を閉じました。
了
山根あきらさん
『小さなオルゴール』に参加させていただきました。
ありがとうございます。