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毎週ショートショートnote

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たらはかにさんの企画です。410文字ほどの世界。お題は毎週日曜日に出されます。
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2024年7月の記事一覧

海のピ 毎週ショートショートnote

難破船にピアノが一台。 ピアノは注文主のところに届くことは無く、何年も海の底の船の中にいた。 ピアノは自分が楽器であることも忘れていた。 ただ、注文主の娘と新しい人生が始まることを楽しみにしていたことは覚えていた。 ピアノを梱包していた木の箱もいつしか無くなり、ピアノの蓋は開いて鍵盤が露わになった。勿論ピアノが歌うことは無い。 時々、海の生き物たちがピアノの周りを通り過ぎることもあるがそれだけの事だった。海の生き物にしてもピアノが何なのか知る者は無く、ただの変わった岩のよう

彦星誘拐を企てた織姫妖怪の物語 毎週ショートショートnote

彦星と織姫は天帝の怒りを買い、後悔と反省をしていたが天帝は一向に許してくれない。 これをチャンスと思った妖怪がいた。 その妖怪は彦星に横恋慕していて何とかこの機に彦星を手に入れたいと思った。 妖怪は織姫に化けると彦星に近づく。 『彦星様、父が許してくれました』 妖怪織姫はそう言うと楚々と彦星の胸に。 彦星は多少の違和感を感じたが、織姫の新たな魅力と思い虜に。 妖怪は自分たちの新居とだまし彦星を自分の住居に連れ去った。 織姫はそんな事とは露知らず、一心不乱に愛しい彦星のた

発砲通報プロ 毎週ショートショートnote

発砲音が鳴り響く。組織の防音設備の完備した一室。 発砲したのは私では無い。妻だ。 彼女も私もエージェント。新しい武器の試し撃ち。 「どうだい?」 私の質問に彼女は 「今一つね」 彼女は肩をすくめた。 表には出ないが我々にも生活がある。善良な市民としての顔も必要なのだ。二つの顔を持つことに、私たちは疲れを感じ始めていた。40歳も目前だ。転職して新しい人生を歩みたい。正直な話。 私たちはそれとなくボスにぼやいた。 下手をすれば、どんな仕打ちを受けるかわからない。 ところがボ

一方通行風呂 毎週ショートショートnote

私の家は旅館。 両親は私の事は松子さんに任せっきり。だから私は松子さんに育てられたようなもの。 松子さんは、ちょっと不思議な人だけれど、とても優しいお姉さんで私は大好き。 私が12歳になった時、松子さんは言った。 「私の本当の名前は、ジュジュラというの」 『松子』は働くときの名前だと知っていたけれど。ジュジュラって外国人の名前みたい。でも詳しく聞いてはいけない気がした。 松子さんは、私の誕生日のお祝いに不思議なものを見せてあげるって言ってくれたの。 私と松子さんは大露天