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毎週ショートショートnote

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たらはかにさんの企画です。410文字ほどの世界。お題は毎週日曜日に出されます。
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2023年12月の記事一覧

プールの紅トーナメント 毎週ショートショートnote

若者達が運営する、少しばかり有名な『紅』という演劇グループをご存知でしょうか。そこの劇団員が二つのグループに分かれて何やら揉めていたのですが、とうとう表立って対立する事となったのです。 今に至り、どちらが『紅』を名乗るかで一触即発状態。 どうやってケリをつけるか。 近くにあるモータープールで、一対一での試合、トーナメント方式で決着を付けることになったのです。優勝者が全てを決めるという事になりました。 一体どんな勝負をするつもりなのでしょうか。 いやいや、またそこで揉めてい

ルールを知らないオーナメント 毎週ショートショートnote

昨年片付けた場所に、オーナメントが見当たらない。 その時、二本足で歩いて近づいて来たのは白猫。至極当然のように猫は私に声をかけた。 「ご機嫌よう。何かお困りのようね」 私は、つい返事をしてしまう。 「ええ、クリスマスのオーナメントが見当たらないの」 「あ、それでしたら、私がお借りしてますのよ」 「あの、猫さん、困ります。お返しください」 「今日のパーティーが終わればお返しします。あなたもクリスマスパーティーをなさるの」 「いえ、ただ毎年飾っていますから」 「でしたら、私達

愛にカニばさみ 毎週ショートショートnote

私は彼を忘れたいと願っている。 彼を愛しているけれど、彼が私だけを愛してくれる事などあり得ない。 私は彼の大勢の取り巻きの一人。この恋に終止符を打ち、新たな道を歩きたい。なのに未練がある。 そんな私を見かねて、妹がこう言ってくれた。 「お姉ちゃん、こんな話信じられる?」 妹も以前、辛い片思いをしていた事がある。 「海に行って、海王様に祈るの。カニばさみを与えてくださいとね。その代わり一生蟹は食べませんと」 「は?」 「一心に祈ると与えてくださるの」 「は?」 「お姉ちゃ

台にアニバーサリー 毎週ショートショートnote

今日は結婚記念日。一緒に暮らして10年になるが、夫は私にプレゼントをしてくれたことが無い。誕生日も記念日も無し。やはり寂しい。 結婚して最初の彼の誕生日に、私はプレゼントを彼に贈った。 すると、彼は専業主婦の私にこう言ったのだ。 「これって、オレの給料で買ったんだろ?じゃあ、礼は要らんな」 そんなグチを妹にした。 「お姉ちゃん、来月のお姉ちゃんの誕生日、奮発するからね」 そう言ってくれた妹。 そしてひと月が過ぎ、私の誕生日。 妹にプレゼントをもらった。開けてみると指輪の台

肋骨貸す魔法  毎週ショートショートnote

その男は肋骨が透けて見えた。 汚い食堂の前を右に左にとウロウロしている。腹が空いているようだ。 私は彼に声をかけた。 「食わしてやろう」 男は穴の開くほど私を見た。何かされる予感があったのか。 そしてそれは間違ってはいない。 私は左の肋骨が一本足りない。 先だって知らぬ間に魔族の男に抜かれたのだ。そいつから取り返すよりこの男から一本頂く方が早いだろう。 私は彼の手を引き入店した。 「なんでも注文しろ」 彼は安心したのか飯付きラーメン大盛を注文した。 あっと言う間に平らげ、

神の贈り物 毎週ショートショートnote

人類は新たな能力を手にした。 人類は神からの贈り物に歓喜した。最初は。 新たな能力、それはテレパシー。 だが、スマホには意思伝達以外に利用できるツールが幾つもある。テレパシーだけではスマホをカバーできない。確かに不便だ。 人類にはこの能力を使いこなせなかった。相手に届いては困る内容も、すべてが筒抜け。コントロールできないのだ。かなり厄介な能力。 神の贈り物より、スマホの方が便利だと全人類が思っている事を神はどう思われているのか。 次に、スマホが突然白骨化すると言う現象

優先席の微世界先生 毎週ショートショートnote

有るか無いか、わからないほど小さな世界が人類の存続を脅かし続けている。彼らの世界、それは公共交通機関に設置されている優先席の中。 とても小さな世界、微世界の者たちが病原菌等を振りまいているのではない。彼らは年寄りの知識をコピーする。年寄りの中で、ある分野等で『先生、教授』と呼ばれていた年寄りを重点的に狙っているように思える。 微世界の者たちは宇宙人で、人類の継続を脅かしていると、偉い人たちが警告を発している。今更、優先席を取り去ったとしても遅きに失した感がある。 しかも、

助手席の異世界転生 毎週ショートショートnote

中古車を購入した。 古い車種だが、なかなかスタイリッシュ。ひと目で気に入った。 スポーツカータイプだが、スポーツカーでは無いとの説明。 不思議なことに、この車に乗る度に、助手席に女が現れるのだ。それもなかなかの女。残念ながらどの女も映像のように実体は無い。 ある時、胸が高鳴るほどの女性が出現した。運命の人だと思ったが、彼女もやはり映像の……。いや、彼女は私を見つめて微笑んでくれた。私は思わず彼女の肩に触れた。 すると彼女の体はピクンと跳ねた 彼女は、そこにいた。 私は車