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爪毛の挑戦状

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爪毛川太さんの企画です。 410文字の世界。お題は固定です。選ぶのはあなた。
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2022年12月の記事一覧

ベランダの酒

ある日から私の部屋のベランダに酒が置かれるようになった。もう半年になる。 日本酒一合が、どこにでもあるような安物のガラスのコップに入っている。 私の部屋は10階建ての8階。両隣からも階下からも上の階からも、このコップをこの場所に置くのは不可能。 酒はありがたく頂いている。最高級の日本酒。気味は悪いが美味いものは美味い。無類の日本酒好きだもので。 毒?この酒の芳醇な香りを嗅いだ時、死んでも良いと喉が鳴ったさ。空のコップはまた元の場所に置いておく。しばらくすると消えている。不

誘惑経営

この街に小洒落た医院が建てられた。辺りにも内科医院はいくつかあり、大抵の住民はこの街にホームドクターを持っている。 新参の医院の話など噂にもならない。 だが開院となった途端に、この新しい医院の注目度は上昇したのだ。 ここの医師、看護師、受付は女性だけであるが、その全員がすこぶる付きの美女達であった。 男達、その医院に行きたいが健康であれば行く必要は無い。 病気持ちであっても、長年世話になっているホームドクターを裏切るのも気がひける。 しかし、ここは休診日が月曜日。この

つまみ癖

「ちょっとー、やめてよー」  妻の声が響く。 「圭が真似するからいい加減にしてよ!」 「ハイハイ」と言いながらも夫は唐揚げをもう二つ摘む。 「揚げたてが一番美味い」 そう言いながら唐揚げの一つを圭に渡す。 呆れる妻を後目に、自分の部屋に逃げ込む夫。 やおら二人はそれぞれに携帯を取り出す。メールチェック。 お目当てのメールがあったらしく、二人の顔がそれぞれ緩む。 夫には秘密がある。妻が知ったらタダではすまない事は重々承知。それでも湧いてくる浮気心。 唐揚げのつまみ食い