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爪毛の挑戦状

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爪毛川太さんの企画です。 410文字の世界。お題は固定です。選ぶのはあなた。
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2022年7月の記事一覧

雨の袋

風神、雷神、雨神の三人の若い神様がいた。 彼らが成人すると、それぞれに袋を父神から授かった。風神の袋には風、雷神の袋には稲妻、雨神の袋には雨が、いつも満タンに詰まっている。 雨神は、袋の重さにうんざりしていた。他の二人の袋は軽い。 「頼むよ、私の袋と取り替えて欲しい」 「お前は雨を司る神ではないか、交換してどうする」風神は諭す。 「袋が重いのであれば身体を鍛えよ。私も稲妻の制御に苦労しているのだよ」雷神は言葉をかけた。 父神は、そんな雨神を神としての自覚がない故と叱

足跡は歩く

ある朝起きると、部屋中が足跡で埋め尽くされていた。発光塗料で描いたように光っている。 玄関から何者かが侵入したかと思ったが、ドアは施錠されており、キッチンには足跡は一つも無かった。バスもトイレも変化は無い。 このワンルームだけに、降って湧いたようなこの現象。 ところが朝日が差し始めると、足跡は全て消えていった。 その日の夜中、変な気配で目が覚める。 薄明かりの中、誰か目に見えない者が歩いているのか。足跡がヒタヒタと増えていく。小気味良い歩みだ。 「誰だ」僕は声を上げた

象牙の門

私の夢は、象牙の門をくぐる所から始まる。隣に角の門があるのだが、私にその門をくぐる許可は与えられない。 一度くぐりかけたが、角の門は通してはくれなかった。 仕方なく象牙の門をくぐる。 青い空が広がっている。どこまでも。他に何も無い。孤独が波のように襲ってくる。帰ろうと思い振り返るが、そこもすでに青い渦に呑み込まれてしまっていた。 前に進むしかない。 あっという間だったか、気が遠くなるほどの時が過ぎたのか、わからない。 たどり着いたのは、なにも無い空間に浮かぶ一つの粗末な

終わりの終わり

私は彼を愛している。 でも、彼にとって私はただの都合の良い女の一人にすぎない。 最初からわかっていたのに。馬鹿な私。 彼に会う度、自分から胸のボタンをはずした。馬鹿な私。 最近、彼が私を見る眼差しは、紛れもなく夫と同じだ。明らかに飽きられている。彼の口から近々別れの言葉が出るか、フェードアウトされるのか二つに一つ、いや、それとも。 私は、県境にある海岸に彼を誘った。私から誘うのは最初で最後。 彼も自分の妻を愛してはいない。彼が妻を利用しているだけだと思うのは女の感。