足跡は歩く
ある朝起きると、部屋中が足跡で埋め尽くされていた。発光塗料で描いたように光っている。
玄関から何者かが侵入したかと思ったが、ドアは施錠されており、キッチンには足跡は一つも無かった。バスもトイレも変化は無い。
このワンルームだけに、降って湧いたようなこの現象。
ところが朝日が差し始めると、足跡は全て消えていった。
その日の夜中、変な気配で目が覚める。
薄明かりの中、誰か目に見えない者が歩いているのか。足跡がヒタヒタと増えていく。小気味良い歩みだ。
「誰だ」僕は声を上げた。
「足跡です」驚く事に返事があった。
「足跡しか見えない。正体を現せ」
「正体は足跡だけです」
僕は起き上がり、足跡の身体部分と思われる場所に強く枕を投げつけた。
でも、枕は宙を切っただけだった。
「へっ⁈」
「すいません、昨日落とした足を探しに来ました」
僕は立ちすくむ。
足跡は、「ありました」そう言って姿を消した。
ああ、酒は止めた方が良さそうだ。
そういう事にしておこう。
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