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ショートストーリー

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2022年9月の記事一覧

【ピリカ文庫】 ラブレター

あなたは覚えているのだろうか。 私達の出会い。私達の結婚。私達の笑顔。そして私達の別れ。 走馬燈のように、私の周りを全ての出来事が光に姿を変えて回り始めている。 それは何の意味も持たないが、ただ私は見ている。 見ていたい。 あなたの顔を思い出したいのに、思い出せない。あれ程あなたを見つめていたのに。 あなたの声はどこかにいってしまって、私に向けられる事が無くなった時も、あなたの言葉をじっと待っていた。 でも、こんな時にあなたを、こんなふうに思い出すのは避けるべきだ。あなた

国道69号線(#2000字のホラー)

車に乗っていて、不思議な世界に迷い込む話は時々お目にかかるが、私の場合は少し違う。 我が家のマイカーは3年前に廃車にした。 私達夫婦は共に七十代を迎えるのを機に、免許も返納したが、交通環境に恵まれた土地に住んでいるので問題無く過ごしている。 夫婦のアルバムには、結婚してから五台の車にお世話になった事が明確に示されている。家族構成が変わる度にアルバムは増えていく。その頃は活気があり、車も張り切って私達を運んでくれ、子供達が巣立って行くと、車は歳を重ねた私達夫婦を柔らかい時間

鬼のむすめ(140字小説)

私は鬼の娘。荒々しい姿はしていない。人と交わる事を先祖が繰り返したから。 私にはツノがある。父にもツノがあるが母には無い。母の髪はパーマをかけたようにダイナミックな縮毛。現在、殆どの鬼や人はそのどちらか。 鬼と人の違い、実は誰にもわからない。 どちらも同じ。 それって素敵な事だと思うわ。