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「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」

「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」村上春樹

高い壁に囲まれ、外界との接触がまるでない街で、そこに住む一角獣たちの頭骨から夢を読んで暮らす〈僕〉の物語、〔世界の終り〕。老科学者により意識の核に或る思考回路を組み込まれた〈私〉が、その回路に隠された秘密を巡って活躍する〔ハードボイルド・ワンダーランド〕。静寂な幻想世界と波瀾万丈の冒険活劇の二つの物語が同時進行して織りなす、村上春樹の不思議の国。

初めて村上春樹の作品を読んだけれど、とても面白かった!
話は何だかよく分からなかったし結末もどういう意味なのか理解できなかったけど、ページをめくるたび異世界を覗いているような気持ちで楽しんで読めた。これが世に言う村上春樹ワールドか、と思った笑。
文体とか比喩の表現とかが独特で私はかなり好みだった。ハマりそう。おすすめあったら是非教えてください。


「そういう光景を想像していると、私はなんだかとても悲しい気持になったわ」
「どうして?」
「たぶん世界が数えきれないほどの木と数えきれないほどの鳥と数えきれないほどの雨ふりに充ちているからよ。それなのに私はたった一本のくすの木とたったひとつの雨ふりさえ理解することができないような気がしたの。永遠にね。たった一本のくすの木とたったひとつの雨ふりさえ理解できないまま、年をとって死んでいくんじゃないかってね。そう思うと、私はどうしようもなく淋しくなって、一人で泣いたの」

上巻 p467

ふとした瞬間に私もこんな気持ちになることがある。
何年も一緒にいる人でも分からないことはあるし、この世界は知っていることよりも知らないことの方が圧倒的に多い。私が生きる年数では到底知り得ないものがたくさんある。それが、どうしようもなく虚しくて、儚くて、淋しい。


「人それぞれ同じ心というのはひとつとしてない。しかし人間はその自分の思考システムの殆んどを把握してはおらんです。(略)たとえば簡単な質問をしてみましょう。あんたは剛胆ですかな、それとも臆病ですかな?」
「わかりませんね」と私は正直に言った。「あるときには剛胆になれるし、あるときには臆病です。ひとくちじゃ言えません」
「思考システムというのはまさにそういうものなのです。ひとくちでは言えん。その状況や対象によってあんたは剛胆さと臆病さというふたつの極のあいだのどれかのポイントを自然にほとんど瞬間的に選びとっておるのです。そういう細密なプログラムがあんたの中にできておるのですな。しかしそのプログラムの細かい内訳や内容についてはあんたは殆んど何も知らん。知る必要がないからです。それを知らんでも、あんたはあんた自身として機能していくことができる。」

下巻 p93~94

私の性格も矛盾だらけで、それも年々極端になっていっているから、よく「自分はどっちなんだろう」と考えてしまうけど、もしかしたら自分を定義する必要なんてないのかも。

何をしようが何を考えようが、全部私。

私は人によって態度を変えてしまう。好き嫌いとか媚びているとかではなく、その場の空気やその人のテンション、表情で察してそこで一番いい、もしくは求められている態度をとっている。何だか人に合わせてばかりな気がして嫌だったけど、気づいたらそう振る舞ってるからどうしようもなかった。

でもそれが”私らしさ”だとしたら。

私も知らない”私”が、まだまだ自分の中に眠っているのなら。

そう考えたらちょっといいかもって思えた。

「つまりあんたはもともと複数の思考システムを使いわけておったのです。もちろん無意識にですな。無意識に、自分でもわからんうちに、自己のアイデンティティーをふたとおり使いわけておったんです。」

下巻 p117

私は少しだけ、ハードボイルド・ワンダーランドの<私>に似ている。

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