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[研究室学生向け] 構造化して文章を書く

オフィシャルシーンにおける文章(例:論文,レポート,学外の方へのメール)は,たとえ数文であっても,徹底的に構造化して文章を書く習慣を付けましょう。

構造化の重要性

1文であれば,構造化の重要性は理解している

この手法は,我々が提案するものであるが,高い臨場感が提供できるため,低コストで実現可能である。

この文を見たとき,みなさんは容易に問題点を指摘できるでしょう。なぜ高い臨場感が提供できると低コストなのか不明であるし,何が実現可能なのかも分かりません。「我々が提案するものであるが」と補足するように書く必要性も不明です。

お気づきのとおり,この文は書くべき要素が抜けており,既に書かれている要素も順番がおかしいです。本来は次のようにするべきです。

我々が提案する手法は,既存デバイスを用いて高い臨場感が提供できるため,没入感が高いシミュレータを低コストで実現可能である。

このように,書くべき要素をきちんと洗い出して適切な順番で記載する(=構造化)ことをしないと,文に必要な情報を含められず,誤った/不完全なメッセージが伝わってしまうことは,多くの人が理解していることでしょう。

文章全体にも構造化が重要であることを理解しているだろうか

しかし,同じことが文単位だけではなく,文章全体の単位にも言えることを,初心者は意識していないことが多いように思います。

例えば,論文執筆に慣れていない人は,先頭から末尾まで順番に1文ずつ書こうとしがちです。そして,今書いている1文1文には大変気を配るのですが,各文が論文全体において適切な位置にあり,適切な役割を果たしているか,ということに意識を向けることが少ないようです。

その結果,言いたいことは分からなくもありませんが,論旨が曖昧で,あちこちロジックが飛躍していて,どうもすっきりしない論文ができあがることが多いのです。論文の先頭と末尾で,主張が若干ずれてしまっているということもよくあります。

私はこの状況を,「足元だけを見て歩いている」とたとえます。1歩1歩は歩みとして成立しているかもしれませんが,一体どこにたどり着くのか分からないし,運良く目的地にたどり着いたとしても経路が最適ではない可能性が高いです。百歩譲って,書く側は達成感が得られるのかもしれませんが,読まされる側はたまったものではありません。

みなさんが見知らぬ場所に行くときは,事前に地図を見て経路を決め,経路上で目印となる建物などをチェックしておき,それらを頼りにして道に迷わないように歩くでしょう。文章を書くときも同じようにすると良いです。

文章の構造化

不適切な書き進め方(構造化せずに書く)

前述の「先頭から末尾まで1文ずつ書く」という不適切な書き進め方を模式図で表すと下図のようになります。

現在書いている各文のことばかりに気を取られてしまうので,論文の結論がどこにたどり着くのか,要素の過不足はないか,論文全体として筋が通っているかなどのことを判断することが大変難しい書き方です。

運良くどこかのタイミングで文章の不整合に気がついても,それまでに書いてしまった1文1文のどこをどう直せば問題が解決できるか判断することは難しいです。これは,手当り次第に積み木を重ねて作った塔のバランスを取ろうとする作業に似ています

さらに論文投稿の文脈で言えば,末尾まで書き終えてからでないと文章が成立しないので,〆切直前まで論文が完成しないことが多いし,末尾付近の文は未洗練であることもしばしばです。

不適切な書き進め方

適切な書き進め方(徹底的に構造化して書く)

一方,論文を含む長文執筆に慣れた人は,下図のように書きます。これは,まず文章に必要な要素を洗い出し,それらを適切に並べて全体の骨子を作成した上で,
徐々に肉付けしていくやり方です。

このように,構成要素の数・役割や,構成要素間の関係が明らかな状態の文章を,「構造化された文章」と呼びます。この書き方の最大の利点は,文章全体の構造を常に意識できるので,筋が通った文章を書きやすいことです。

アウトライナー

文章の構造化を行うには,アウトライナー(アウトラインプロセッサ,構造化エディタ)というツールが便利です。これは,文章の構造を作成・可視化するためのテキストエディタです。実は,みなさんが日常的に使用しているEmacs,Vim,Microsoft Wordなどはアウトライナーとして動作する機能を持っていますので,調べてみてください。

専用のアウトライナーアプリケーションもあります。たとえば,複数端末間でデータ同期できるもの(例:Cloud Outliner 2)や,Webブラウザ上で動作するもの(例:Dynalist)などがありますので,自分にあったものを探してみてください。

アウトライナーを使うと,長文が驚くほど簡単に書けるようになります。たとえば,構造化された文章の上位階層だけを表示して文章全体の整合性をチェックしたり,各文をパズルのピースのように入れ替えたりすることが簡単にできます。

一度でもアウトライナーで長文を書いてみれば,シンプルなテキストエディタで文章を先頭からひたすら書き進めることが,どれほど非効率なことであったか実感していただけると思います。

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