あの家 5

家を見下ろしていると、足元にふわりとまとわりつく感触があり、目線を家から足元に移す。
驚きはしない。
この神社付近を根城にしている猫だと解っている。
普段からスカートしか履かない私の脚に、猫のモフっとした太い尻尾が巻き付いていた。
これでは動けないなと思いながらも、どうせすぐに元の場所に戻って行くことも知っているから、まぁ良いかと猫の頭を撫でてやった。

この猫。
普段はこの見晴らし台の隅にある、水溜まり程度の小さな池とも言えない池の主なのだ。
池には金魚が一匹しかおらず、猫はその隣でいつも静かに座っている。
初めて会った時に、残したお弁当のオカズをあげたのが原因なのか、猫は私が来ると必ずこうやって会いに来る。
親に怒られてからはあげていないが、それでも猫が会いに来るので、懐かれている方だと思う。

猫に愛称などはつけていない。
他に何と呼ばれているのかも聞いた事も無いし、今更な気もするので、お猫様のままでいい。
仮に愛称をつけるならば、真っ白な毛色から『シロ』。
金色の瞳から『コン』。
ふわふわな体から『ケサランパサラン』。
最早、猫とは程遠い。

そんな事を考えていると、猫は撫でられるのに満足したのか、身軽に私の傍を離れて行った。

そして、交代するかのようにジャリジャリと足音が近付いてくる。