2022/7/7『オレンジ』

樹はオレンジの樹である
岩山の頂から、すこし離れて
山羊たちは、すこし眼を細めて
記憶する気象条件の
嵐が来る予感めいたもの
砂まじりの神が、ようやく到達する
「破壊された町を離れて」
「わたしたちは遊離する、死者たちとも」
「わずかばかりの食糧を袋につめ」
バスに乗る
少年はオレンジを握っている
このバスの屋根から永遠に向かって「はしご」がのびている
過ぎ去った友人たちは空の薄曇りを見る
母さん、あの丘を見てごらん
戦車が燃えているよ
母さん、あの樹を見てごらん
ずっと炎は高く、ずっと高く燃えているよ
僕等は永遠にこのバスから降りられないの
岩山の下で男たちは何かを築いている
それは「文明」と呼ばれ
それは「人間」と呼ばれ
わたしたちは遥かな海を見るように悲しく見るもの
少年はオレンジを握っている。