見出し画像

2022/12/9 『典子』

典子、神の座より転落し
黄塵にまみれ砂を噛む
美しかりし髪も乱れ傷つく
六波羅の木々、鉄線をひろげ
ステンレスの銀天をいただく、その空に
苦き思いを歯軋りし
典子、天皇のもとを追われたり

冷たき路線に足をすべらし
遠く狼声は松並みを去り
汽車は轟音とともに彼女の
頬を乳房を太股を
剥ぎ飛ばし
湖面に泪は
油のように泪は
月光のつららとともに錯乱する

インド洋と桂川の接点にて
典子の悲しみは最大に最良に飛翔する
苦しみは地球の人々にあらゆる
そして至る処の生物によって
それは歌われ、きみどりの果肉をとおして
研究と魔笛は
夜の望みであるのかも知れない

では革命の為にささげられた命は
夜空の無意味となってしまったのか
ポラロイドカメラのレンズは左回転し
のけぞる女の鼻毛と腋毛を青空に
白貝色に反映させた
どこにもあるし、どこにも行くし
どこででも死者と生者は色遊びを怠らない

典子は空転を望んだが
悪霊はこだまする谷底の黒百合を
耳もとで見たいと口走る
さらばとて、空気銃は補填されず
みどり児は魂の美しき
葵の葉を好んで手の下に流していた

盛んに工事は路上に展開し
鹿々の園はイタケーの地に新しき
赤砂を敷いた
ああ白き砂は海辺をいろどり
魚達のひとみは私の體を内側から愛の
コンブに舌
そして典子の手首は波をかぶり
津波に染まり
深き青のうねりのただ中で
角の大きな犀の背に
タオルをかけた

何事の夢であったのかと
つつじの花にアゲハは舞い来たり
机は砂上に朽ち果て
都市のアランは北の海面の
波静かな底に
横たわるロダンの白き
裸體の光もよどむ
虚無の嵐は次々に人類の
心臓を飲みこんだのかも知れない

隠れキリシタンよりも
隠れイスラムの首に架けたる燃える
飛行機形のペンダントを
しめっぽい洞窟の奥のくらやみで私は
彼の首からすっぽりと
その運命を取り去り
壁の模様を嘲笑ったのであるが

でも太陽は狂い、プールは満員であった
アイスクリーム売りの彼女は
下腹に汗を流して
この暑さを呪って見上げ
足裏にいやな水たまりを感じる
おお その時に
彼は塗炭の苦しみを脱して
黄金のピラミッド
かがやく神の栄光の座を爆破した

典子、ベンチに坐る。