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個人事業の開始時に提出する「個人事業開始申告書」とは?

個人事業主として事業を開始する際は、個人事業開始申告書や開業届などの書類を税務署へ提出する必要があります。これから起業を検討しているものの、必要な手続きや書類について不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、個人事業の開始に必要な手続きや個人事業開始申告書の概要、個人事業開始申告書の書き方についてわかりやすく解説します。
 

個人事業の開始に必要な手続き

個人事業主として新たに事業を始める場合、以下の手続きが必要となります。
 
・開業届の提出
・青色申告承認申請
・個人事業開始申告書の提出
・その他必要な手続き
 
ここでは、各手続きの概要や手続き方法について解説します。
 

開業届の提出

個人事業を開始するときは「個人事業の開業・廃業等届出書」(開業届)の提出が必要です。
開業届とは、事業により所得が発生し「所得税」がかかる旨を税務署に伝える書類を指します。個人事業主として働く人は、事業を開始した日から1ヶ月以内に管轄の税務署への提出が義務付けられています。
 
開業届の提出は所得税法によって義務付けられていますが、提出しなくても罰金は科されません。しかし、提出しておくことで以下のメリットがあります。
・青色申告を活用できる可能性がある
・屋号付銀行口座を作成できる
・小規模企業共済に加入できる
 
開業届の提出方法は以下の3種類です。
【1】税務署の窓口に直接持参する
記載方法に不明点があったり、記入漏れがあったりしてもその場で相談や修正が可能です。
ただし、税務署の開庁時間が平日の8時半から17時までと限られているため、来庁できない場合もあるでしょう。その場合は以下の【2】または【3】の方法を利用しましょう。
 
【2】税務署宛に郵送する
国税庁のホームページで管轄の税務署の住所を調べて郵送する方法です。個人事業主は、原則として納税地は自宅の住所地となります。以下の書類を封筒に入れて郵送しましょう。
1.開業届(国税庁のホームページからダウンロードする)
2.開業届の控え(税務署の受領印が押された控えが返送されるため)
3.返信用封筒・返信用切手(自分の住所を記載して切手を貼った返信用封筒を同封する)
4.マイナンバー確認書類・本人確認書類(マイナンバーカードの写しだけでも可)
5.青色申告承認申請書(「所得税の青色申告承認申請書」とその控えを同封する)
 
【3】国税庁のオンラインサービス「e-Tax」を利用する
e-Taxを利用して開業届を提出する場合は、パソコンとインターネット環境、ICカードリーダライタ、マイナンバーカードを用意します。以下の流れで事前のセットアップを行いますが、詳細はe-Taxのホームページをご確認ください。
 
1.利用者識別番号の取得
e-Taxのホームページから開始届出書を作成・送信し、利用者識別番号と呼ばれる16桁のID番号を取得します。
 
2.電子証明書の取得
マイナンバーカードを使って、電子的に本人であることを証明します。
 
3.e-Taxソフトのインストール
e-Taxのホームページの「各ソフト・コーナー」からe-Taxソフトをダウンロードおよびインストールすることでe-Taxを利用できるようになります。
 
なお、e-Taxで開業届を出した場合は開業届の控えとなる税務署の受領印をもらえません。
送信したデータと受信通知とをそれぞれ印刷して併せて提出することで、控えとできるため忘れずに印刷と保存をしておきましょう。
 

青色申告承認申請

開業届と併せて提出する必要のある書類が「所得税の青色申告承認申請書」(青色申告承認申請)です。個人事業主が確定申告をする際は「白色申告」と「青色申告」いずれかの方法を選択でき、青色申告承認申請は、青色申告を希望する書類となります。
青色申告は白色申告よりも記帳が複雑で手間がかかるものの、青色申告に特化したソフトを利用すれば比較的簡単に記帳できます。
また、青色申告で確定申告をすれば税務上で以下の特典を受けられます。
 
・青色申告特別控除
複式簿記で記帳し、貸借対照表や損益計算書を添付して青色申告を行った場合に55万円(e-Taxで申告の場合は65万円)の控除を受けられます。
 
・純損失の繰越しと繰戻し
その年に事業から生じた純損失(赤字)の金額を、翌年以後3年間にわたって翌年以後に発生した所得額(黒字の金額)と相殺することが可能です(純損失の繰越し)。前年も青色申告をしている場合は、今期の赤字と前期の黒字を相殺してその分の法人税を還付してもらえます(純損失の繰戻し)。
 
・青色事業専従者給与
事業主の配偶者や15歳以上の親族が事業を手伝っている場合、業務内容や従事する時間・期間に応じて給与を必要経費にできます。この特例を利用するためには管轄の税務署へ「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出する必要があります。
 
・貸倒引当金の計上
年末に残っている売掛金や貸付金などの債権に対して、5.5%(金融業の場合は3.3%)の金額を貸倒引当金繰入として必要経費に計上できます。
 
なお、青色申告を希望する場合は、開業日から2カ月以内に青色申告承認申請を行わなければならないため注意しましょう。
 

個人事業開始申告書の提出

個人事業を始めるにあたって忘れてはならない手続きが「個人事業開始申告書の提出」です。
この書類に関しては、次章で詳しく解説します。
 

その他必要な手続き

「個人事業の開業・廃業等届出書」「所得税の青色申告承認申請書」「個人事業開始申告書の提出」のほかに提出すべき書類は、前述した「青色事業専従者給与に関する届出書」と 「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」です。
「青色事業専従者給与に関する届出書」は家族を従業員とする場合のみ必要となります。「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」は、従業員の給与から源泉徴収した所得税の納税手続きを年2回に減らしたい場合に税務署に提出する書類です。納税手続きの負担を軽減できるため、提出することをおすすめします。
そのほか、従業員を雇用する場合は労働基準監督署やハローワーク、都道府県労働局、年金事務所などで各種手続きが必要になるため、専門家に相談したうえで手続きを済ませましょう。
 

個人事業開始申告書とは

個人事業開始申告書(事業開始等申告書)は、都道府県税事務所に事業を始めたことを報告するために提出する書類です。
この個人事業開始申告書について、開業届との違いや、個人事業税の税率が気になるという方も多いのではないでしょうか。ここでは、個人事業開始申告書と開業届の違いや、個人事業税について解説します。
 

個人事業開始申告書と開業届の違い

個人事業開始申告書と開業届はいずれも官公署に事業を開始したことを報告する書類という点は共通しています。ただし、個人事業開始申告書は個人事業税に対する届出、開業届は所得税に対する届出という点で異なります。
地方税である個人事業税は都道府県税事務所に、国税である所得税は税務署に報告するため、書類の提出先も異なるのです。
これは、国税は国税庁が管理し、地方税は各都道府県が管理している仕組みによるものです。異なる機関に書類を提出しなければならないのは手間ですが、最初だけなので早めに済ませてしまいましょう。
 
個人事業開始申告書と開業届との違いをまとめると、以下の表のようになります。

 なお、個人事業主の住民税に関しては、管轄の税務署への開業届の提出が済んでいれば各自治体への提出は不要となります。
 

個人事業税について

個人事業税とは、名称のとおり、事業を行う個人事業主にかかる税金のことです。
東京都主税局において個人事業税がかかる事業と税率は以下のように定められています。

個人事業税は、以下の計算式で算出します。
 
●      個人事業税=(所得金額-各種控除額)×税率
 
所得金額は、原則として、所得税における事業所得および不動産所得の計算と共通ですが「青色申告特別控除」は適用されないため注意しましょう。計算式における各種控除額は、290万円の事業主控除を指します。個人事業主には290万円の事業主控除があるため、所得金額が290万円以下であれば税金が発生しません。事業を行った期間が1年未満の場合は、290万円の全額控除は適用されず、月割りをした金額となります。
個人事業税の課税対象となる場合は、毎年3月15日までに都道府県税事務所に所得の申告が義務付けられています。ただし、所得税の確定申告を行っている場合は、個人事業税の申告は不要です。個人事業税は、都道府県から納税通知書が送付されるため、自分で納税額を計算する必要はありません。納税通知書が届いたら、納付書にて支払いを行いましょう。
 

個人事業開始申告書の書き方

個人事業開始申告書は書式や提出方法も開業届と異なります。事業を始めると様々な雑務が発生して慌ただしくなるため、スムーズに手続きできるように個人事業開始申告書の書き方を前もって確認しておきましょう。ここでは、個人事業開始申告書に記載する項目や、提出方法、提出期限についてご紹介します。
 

個人事業開始申告書に記載する項目

都道府県によって申告書の書式は異なりますが、多くの場合以下の項目を記載します。
 
【1】事業所の情報
事業所の所在地、電話番号、名称や屋号、事業の種類などの事業所の情報を記載します。事業所の所在地と自宅の住所が異なるとき、事業所を納税地として税務署に提出している場合、所在地の欄に〇印を付けます。
 
【2】事業主の情報
事業主の氏名、自宅の住所、電話番号など事業主本人の情報を記載します。事業所の住所と自宅の住所が同じ場合は「同上」と記載しましょう。
 
【3】開始年月日
個人事業主として事業を開始した日付を記載します。
 
【4】事由
「開始」に印を付けます。その他の事由があれば別途記載しましょう。
 
【5】事業開始等申告書の提出日
提出日の記載は可能であれば当日に記載することを推奨します。提出日として記入した日と実際の提出日が大きく異なる場合は書類を作り直さなければならない可能性もあるためです。また、提出日の記載とあわせて、署名と捺印も必要となります。
 
【6】提出先の事務所
記載漏れや誤りがないかを確認したら、提出先の事務所を記載しましょう。東京都の場合は所轄の都税事務所が異なるため事前に確認してから記載する必要があります。
ちなみに、都道府県によっては個人番号や税理士の情報(開業にあたり税理士の関与が合った場合)などの記載が求められる場合があります。
 

個人事業開始申告書の提出方法

多くの都道府県では所轄の税事務所窓口への持参、または郵送にて対応しています。記載内容の不備を防ぎたい方は、窓口へ直接持参してその場で確認してもらうことを推奨します。時間や手間をかけたくない方は、税理士や社労士などの専門家に代行を依頼しても良いでしょう。
起業にあたって、税理士や社労士とは今後とも関わりが発生するため、信頼できる事務所を見つけておくと安心です。そのほか、個人事業の開業手続きを簡単に作成できる無料サービスを利用する方法もあります。
自分に合った方法でスムーズに書類の作成・提出を済ませましょう。
 

個人事業開始申告書の提出期限

提出期限は各都道府県および自治体によって異なるため注意が必要です。東京都の場合は開業から15日以内、神奈川県は開業から1ヶ月以内、大阪府は開業から2ヶ月以内と定められています。提出期限に遅れないためにも、事業を始める前に各自治体のホームページにて確認しておきましょう。
 

個人事業開始申告書の提出は必須?

個人事業開始申告書の提出は各自治体の条例で義務付けられているものの、期限内に提出しなかったとしても罰則は設けられていません。また、確定申告を行う場合は、開業時に個人事業開始申告書を提出していなくても問題ないとされています。個人事業主として確定申告を実施している場合、国税庁から各都道府県の自治体へ情報が共有され、管轄の自治体より個人事業税の納税通知書が送付される仕組みとなっているためです。
 

まとめ

ここまで、個人事業の開始時に必要な手続きのひとである「個人事業開始申告書」について詳しく解説しました。
提出しなかったとしても罰則は科せられませんが、条例で義務付けられているため事業開始に伴い提出しておくことが望ましいとされています。手続きの時間がない方は、税理士や社労士など専門家への依頼や、無料サービスを利用して作成・提出を行うようにしましょう。

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