Timing【会社哀愁歌_亜子Ver.】|短編小説
いい加減にしろ!このクソオヤジがぁぁぁぁ!!
亜子はデスクの上によじ登り、走り幅跳びの要領で高林部長のデスクに飛んだ。
部長の胸ぐらを掴み5往復ビンタをかます。それでも気が済まないのでグワァングワァンと部長の首が吹っ飛ぶほど揺さぶった。
と、いう妄想をしてなんとか怒りを抑える。
金沢亜子(26)の仕事内容は特殊で、1日に数回程度のメール配信業務がある。それ以外でメールを送るということはほぼしない。
他部署から依頼がきて、その依頼内容を元に亜子がテストメールを作成し、依頼主からOKが出たら本配信するという流れだ。このフローに例外はない。
亜子が、自部署と依頼部署にテストメールを送る。
亜子が、この内容でいいですか?と依頼主に送る。
高林部長が、倉庫に在庫確認メールを送る。
数10分後に依頼主から、OKですよとメールが届く。
亜子が、配信完了しましたと依頼主におくる。
高林部長が、追加の在庫確認メールを送る。
オッテクル。
必ずあいつが追ってくる。
亜子がメールを送った1分後に必ず高林部長が「今じゃなくていいメール」を送る。
亜子が必ず送らなくてはならないメールの送信を見計らって、ポンポンというリズムで亜子に次いで部長は送る。
偶然なわっきゃない!
先ほども言ったが、亜子の業務は特殊なのだ。毎日決まった時間に送るわけではない。しかし、フローは絶対だ。
同じタイミングで送ることも出来るし、避けることだってできる。
高林部長の「今じゃなくていい小出しメール」に亜子はどうしようもないストレスを感じていた。
メール受信BOXを見ると、亜子のメールと高林部長のメールは必ず仲良く並んでいる。
いつも一緒のタイミング。
これって、
いぃーーやぁーーーだーーーーーーー
こんな話、誰にも相談できない。
くだらない事言ってないで働きなさい、とみんな言うんでしょ。
ストレスだけがどんどん溜まって、そのうち妄想を現実で実行してしまいそうだ。
サービスチームの瑠璃ちゃんにランチに誘われたが、地獄のような気分だったので断った。
一人休憩室でおにぎりを食べていると、課長がコーヒーを買いにきた。
課長に全部話した。
「またヤッてんな」課長はボソリと呟くと、コーヒーを一気に飲み干した。
「大丈夫よ。私がなんとかする」
課長は真剣に話を聞いてくれた。こんな話を受け止めてくれる人がいる、それだけで亜子の心が軽くなった。
翌日、高林部長がガラス張りの会議室で課長とミーティングをしていた。
部長は座ったまま、限界まで顎を引き「気をつけ!」の姿勢を崩さない。
ミーティング、、、なのか?
プロジェクタースクリーンには、何かの男女比のようなものが表示されていた。
1時間後、高林部長の「今じゃなくていいメール」の送信時間が固定された。
亜子はもう、部長に5往復ビンタをかまさずに済むことに安堵した。
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