しり【会社哀愁歌_スピンオフVer.】
朝の通勤ラッシュの混雑は幾分抑えられているようだが、それでも混んでいる。
心を無にして窮屈に耐え、オフィス街の駅を過ぎたあたりで車内の密度もゆるくなる。
やっとこさ座れて息をつくと、私の隣に座る小さなおばあちゃんがゴソゴソとポケットの中を探り出した。
一生懸命ポッケを探るその膝が私を容赦なくどつく。
「へいしり」
おばあちゃんが突然ポッケから探り当てたスマホに向かって呼びかけた。
「へいしり!」
『ご用件は何でしょう?』
「ゅみ○×△$☆ちき」
『すみません、よくわかりません。』
「なんでよ〜うふふふ。ゅみ○×△$☆ちき!」
『すみません、連絡先にその電話番号は、見つかりませんでした。』
「えーうふふふふ。さようなら!」
『もう行ってしまうのですか、少しさみしいです。』
「やだもう。うふふふふ」
おばあちゃんは笑いながら、次の駅で降りていった。
おばあちゃん、私も少しさみしいです。
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