『悲しみの秘義』若松英輔(6)【眠れない夜の対話】

 【眠れない夜の対話】は眠れず過ごす深夜に読みたい。

 僕の睡眠時間は長くて5時間、平均すると4時間くらいだと思う。若松さんの言う、色々と考えて、悩んで、不安になって【眠れない夜】とは違うものの、もう30年くらい同じなので、所謂ショートスリーパーっていうヤツだと勝手に思っている。診察を受けたことがないから分からないけれど。

 いつだったか不安になって、産業医に相談したら、長期間に渡る睡眠不足ではあるが、検査数値は悪くないので気にしないことですね、と、たぶん体質だから仕方ないですね、と、もちろん加齢もあるからどうしようもないですね、と。ただ、これだけ長期間に渡り睡眠が短いと、将来的に認知症の心配はありますよねぇ、とさらりと言われた。

 その日から、できれば認知症にはなりたくない、と無理に眠ろうとしたけれど、当然ながら眠くないのだから、まったく眠れなかった。あの時は、若松さんの言う【眠れない夜】だった。将来が不安で不安で眠れなかった。

 きっと、誰にでもそんな夜はある。

 僕のように「眠れない、どうしよう? 認知症のリスクが高まってしまう。どうしよう?」とあたふたするのではなく、普段は時間がなくて会話を忘れている人と無言の会話をする良い機会だ、と若松さんは言う。自分自身であり、愛する人であり、亡くなった人であり、見知らぬ誰か、あるいは誰かでもなくて「ぼんやりとした存在(何ものか)」でも良い。

 【眠れない夜の対話】で取り上げたブッシュ孝子さんの詩を読むと、若松さんの言おうとすることが良く分かる。28歳の若さで癌で亡くなった孝子さんは、【眠れない夜】に独り、詩を書いた。静かに美しく悲しく沁みる詩だが、彼女は詩人ではない。病に倒れてから、突然、言葉が溢れたと言う。題名のない詩は、幻想的でありながら、ものすごいリアリティがあり、孝子さんも含めて無数の声が聞こえてくる。

 生きたい。生きたい。生きたい。

 眠くならない深夜に漫然とネットを浮遊するばかりの自分が情けなくなる。まだ、「眠らないと認知症になってしまう。どうしよう?」と悩んでいた時の方が良かった。

 だから、ネット浮遊を我慢して『悲しみの秘義』を読む。

 ブッシュ孝子さんの詩は、心の深いところに届く素晴らしい詩である。若松さんは、神谷美恵子さんの『こころの旅』で知ったそうだが、教えて頂いて、本当に感謝している。

 【眠れない夜の対話】は眠れず過ごす深夜に読みたい。

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