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読書感想文「虹の岬の喫茶店」

すっかりと秋めいてきた東京。
気持ちがいい。
短い秋を、余さず感じたい。

最近読んだ本がとてもよかった。
ぼろぼろ涙が出た。
だから久しぶりに
読書感想文を書いてみる。

「虹の岬の喫茶店」森沢明夫さん

この物語は、ある岬で
ひっそりと小さな喫茶店を営む
悦子さんを取り巻く日常を舞台とする。

その場所は、決して目立つ場所にある
わけではなく、生い茂った草むらを
かき分けて、偶然出会う、
そんな不思議な場所にある。

就職活動がうまくいかない少年に、
ある人は言う。

俺は会社員、やったことないけど、
迷ったらロッケンロールな道を選ぶこと。
心がわくわくする方へ。
大丈夫、人間は案外丈夫だ。

そんなことを言う。

他人から投げられる言葉は
時に思いもよらず自分の心を傷つける。
突然で、武装もしていないから、
柔らかい心を、ぐさっと刺してくる。

だからこそ、そんな他人の言葉を
客観的に眺めながら、
自分の心の本音を掴み、大事にすること
それを忘れてしまいがちだ。

なにも、就職活動に限らず、
社会に出て10年以上経った私の心を
ぐさっと刺した。

それは鋭利ではなく、柔らかく包むように、
そして、真っ直ぐ心に届けるように、
しっかりと刺さって、涙が出て、
本を読む手が、離せなかった。
夢中になった。

そんな心に響く物語がいくつか出てくる。

本の中に出てくる、
悦子さんがかけてくれる音楽も魅力的だ。
レコードだろうか。

サブスクが功をなし、
音楽を聴くことは容易になった。
聴きたい音楽はTSUTAYAに行って
借りて、取り込んで、としなくても、
スマホ一つあればよくなった。

どんなジャケットで、
どんな歌詞カードの素材で、
どんなCDの色で、
最初に流れてくる音は?

そんなわくわくは、
サブスクという時代に、
わざわざCDを買わないと、
味わうことができなくなった。

悦子さんが、語りかける音楽には、
一曲一曲へのリスペクトがある。

その時の気分に合わせて、
どんなストーリーを持った曲を、
どんなストーリーに合わせていくかを、
しっかりと考えた上での選曲で、
物語から逸脱するが、
「何かを選ぶこと」の慎重さ、
そんなものを思い起こさせてくれる。

CDを買って、ラッピングを解く、
あのどきどきを思い起こさせてくれる。

とにもかくにも、
心がじわじわして、
涙が止まらなくなるのだ。

初めてこの本を読んだ時は、
電車の中だったけど、
溢れてくる涙が止まらなくて、
涙を垂れ流していた。

だけど、東京の電車は、
みんなスマホを眺めているから、
私1人が涙を流していても、
大多数には気付かれまい。

そんなことを同時に思って、
悦子さんの営むこの喫茶店も、
出てくる登場人物のことも、
たまらなく愛しくなった。

魔法にかけられて、
この喫茶店に、偶発的に出逢えないものか。

そんなことを思う。

それくらいに、素敵な物語だった。

本は好きだけれど、
語れるほどには詳しくない。
好きだなあと思う著作家は、
まだ少ないけれど、
私の生涯の本棚に追加された気がする。

この本を読んでやりたいことがある。

凪のうみと丘と喫茶店の絵を描く
夕方に出る虹の絵を描く
金継ぎをする
将来を考える

また未来が楽しくなってきた。

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