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パフォーマー。

去年の6月に始めたアルバイト。
人生初のアルバイトで、辞め方が分からないから何となく続けている。
かなり優秀だと思われているのか、最初の3週間くらいで一年以上の歴を持つ先輩と同じ仕事を習った。
期待されるのは嬉しいが、裏切ってしまうのではないかという不安も大きい。
入れ替わりの激しい職場のため、1ヶ月もすればラスト作業でリーダーを任された。
仕事をした回数で言えば5回くらい。
毎回新たな仕事を任されて嬉しさはあったもののリーダーという役職は私に荷が重いと思っていた。
夏休みに入ってから留学生バイトが増えた。
日本語は拙いが、仕事は覚えが良かった。
わたしの倍以上シフトを入れて働く彼らを社員さんたちは気に入った。
私は焦った。
クビにされるのではないか、外国人労働者に職を奪われる日本人になるのではないか。
不安でたまらなかった。
その不安を払拭したくて、新たな賭けをすることにした。
キッチンのバイトから販売のバイトへの切り替えだ。
副店長に相談すると喜ばれた。
販売のバイトの子が辞めて人手不足だったらしい。
私は、販売にも挑戦することになった。
バイトを初めて、4ヶ月目になった時のことだ。

販売の仕事は、思っていたよりもしんどかった。
キッチンのバイトであれば、たまに声出しをしていれば頭の中は自由だった。
創作物の案を練ることも許されていた。
しかし、販売は違った。
目の前にいるお客様のことでいっぱいになった。
袋を準備して商品をとって確認して袋に入れて。たまに行列にもなる店のため、イライラしているお客様に当たられることも多かった。
商品名を言わずに個数のみを伝えられて、すべてその店のいちばん高い商品にすると怒られた。初めから商品名を伝えていればいいもの、なぜそんな時間を無駄にするのか分からなかった。
余計行列が長くなるではないか。
用意した袋をいつもより強めに叩きながら、私は心の中でその人が今後布団を干した日にゲリラ豪雨にあうことを祈った。
電話をしながらくるお客様は、とても狂っていると思う。
聖徳太子でないくせに2人の人間を相手にしようとするなんて間違っている。
ポイントカードの有無を聞いても、電話に夢中で時間が無駄なため会計を済ますと、その後にポイントカードを出されることもある。
聞いたじゃん。と思いながら、取り消しをしてもう一度打ち直す。
「なんかポイント付けられなかったんだけどw」
電話の相手に私がミスったように伝えている。
ミスっているのはお客様の感覚とあたまだと伝えたかったが、私は性格が悪いので伝えなかった。
色んな人に嫌われていけばいいと思った。

販売のバイトが疲れるので、春休みは久しぶりにキッチンのバイトも入れてもらうことにした。
キッチンのバイトは頭が休まるという意味では楽だった。
しかし、販売をしてからこれまで以上にお客様の目が気になりガラス張りのキッチンからたまに、お客様を観察するようになった。
そして気がついたことがあった。
50人に1人くらいの確率で、スマホで撮影している人がいる。
ガラス張りのキッチンの理由は、商品ができるまでがパフォーマンスになっているからで行列の時は見られることも多かった。
小さい子が覗き込んでいると、その子の近くでパフォーマンスをすることもあった。
しかし、それは人と人とのパフォーマンスであって撮られているとは思っていなかった。
もしかするとただスマホのカメラがこちらを向いていただけかもしれない。
しかし、わざわざキッチンにスマホを向けるだろうか?
私は、興味本位で自分のバイト先をSNSで検索した。
何本も動画が投稿されていた。
見慣れた顔があった。声も録音されていた。
顔もバッチリ映っていた。胸元の名札も映っていた。
怖くなった。
私にだって肖像権はある。
勝手にSNSで晒されたくないし、他の人のカメラロールに顔が残って欲しくない。
私の苗字は珍しいので、その苗字が広まって欲しくない。
正直気持ち悪い。
気持ち悪い。

アイドルやアーティストのライブは、録音や録画が基本禁止されている。
それとこのバイトの何が違うのだろう。
働いている人を勝手に撮影してブイログとかいう名前で勝手に晒して何が楽しいのだろうか。
私には理解が出来なかった。
パフォーマンスをする上で、笑顔や声出しは仕事として会社からお金を貰っているので最低限している。
しかし、勝手に撮影している人からは何も貰えていない。
お客様は神様だと言うけれど、ただ並んでいる人はお客様予備軍なだけでまだ商品を買っていないのだから神様では無いと思った。
勝手に撮影するな。投稿するな。
パフォーマーとしての自覚がないのかもしれない。
ただ、私は別にパフォーマーになりたいとは思わない。

誰でも発信出来る世の中で、勝手に顔を晒されて、まだまだだね〜とか話しかけられて。
気分が悪い。
私のことをほとんど知らない人達が、勝手に私を評価して、期待して失望して。
ずっと何かを演じてパフォーマンスをして生きていく人生なのかと思う。

人生はずっとパフォーマンス。
人間みんなパフォーマーだ。

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