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読書日記134 【売れていない芸人が書いた17の話】

 高校ズの秋月啓志さんという吉本の養成所(NSC)を卒業して、売れないお笑い芸人を18年間やっている方で、kindle unlimitedで本を探していたら、あったので興味もなく読んでみた。なんか、売れていて有名な芸人さんやネットでバズった人の本はあったけど、本当に売れていない芸人さんの本を読むということは初めてかもしれない。そして、冒頭のところにグッとこの本に入り込むところがある。

 まわりにもし<売れていない芸人>がいたら、試しにこんなお願いをしてみたらいい。
「今度、仲間内でパーティーをするからネタをやりに来てくれないか?」と。
 必ず彼らはやって来る。
 そして、ネタが終わった後、ギャラの話はせずに彼らにこう言ってみる。
「お疲れさまでした。ありがとう。またよろしく。」と
 その<売れていないお笑い芸人>は何か言いたげな顔をする。でも言わない。
 そして、「え?ギャラは?」
 という言葉を奥底まで飲み込むゴクリという音が聞こえた後に、
 「・・・・・・今日はありがとう。また呼んでね。」と言って、今日に立ち去るはずだ。

 すごく、シュールで切ない。僕らは働いてもお金が貰えないという仕事をあまりしないし、法律でも守られている。会社が資金繰りに困っても給料というのは払わないといけない。そんな時代にあまりにシュールな話というか、「あ、金とるの?」というのは流石に切ない感じがするし、それだけでドラマができそうな感じがする。

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 吉本の養成所のダンスレッスンで「チ〇ポ」を叫ばされたり、発生練習をしたりする。年間の授業料を40万円を払うと誰でも入れるらしい。著者は2000年の入学で700人ぐらいの生徒がいたらしいからすごい。その中で売れようと懸命に芸人をやるか?というとそんな感じもなく、ただ、ダラダラと芸人をやっている感じもする。本人は楽しそうに書いているので、楽しいんだろうなと思う。

 ネズミがでる下北沢のボロアパートを引っ越しして、池袋のワンルームに3人で住んだり、田園都市線沿いの鷺沼(さぎぬま)で5人でルームシェアをしたりして生活をしている。そういう仲間がいて、住みたいとなったら紹介してもらってという、バックパッカーみたいな生活をしながらお笑いをやっている。読んでいて悲惨であろう話が「すごくたのしい」という形で書かれてしまっているのに、ちょっと「空気を読めない系の芸人感」は丸出しだけど、すごく面白く読める。

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 ロザンの宇治原さんなんて正直にネタをみたことがない。どんな漫才をするかもわからない。なのにクイズ番組でみない日はない程、テレビにてでいる。「芸人やアイドルってバラエティーって」みたいな境界線のない中で、漫才とかお笑いのネタだけをやるのって大変だろうなとは思う。だけど、これだけ楽しそうに「芸人生活」を書かれると、そういう「人生」も面白いのかな~と思って読み終わってしまった。終わりに著者はこう語る

 僕が知っている芸歴15年を超える地下で活動する<もぐら芸人>の名前を挙げていったとして、軽く100組は超える。みんな同じように悩み、迷い、楽しみ、まだ芸人として食って行くことを夢見て…、いや、そんな夢は捨てて、ただ「好きなことして生きていく」と開き直って暮らしている。

 お笑いのアンダーグラウンドの世界には、本当にこういう30代後半、40代の哺乳類がたくさん生息しているのだ。

 僕もその哺乳類の一匹。終着駅で何を思うのかはわからない。

 そうだな。と思う。人生に「負け組」という言葉なんてないとは思わないけど、普通にそう言われることって少ない。自分が夜にそう思う事は多々あるけれど。だた、こういう芸事には、はっきりと「勝ち負け」みたいなものは存在する。生活があって芸人をやめる人も多いだろうけど、その中で面白おかしく生きている著者は、果たして本当に「負け組なのか?」とも思ったりもする。

 高校入学の時に進学校に入学して、その時の同級生と東京の大学にいってその同級生とお笑いの道を目指した。と最後の話ではまとめられている。私生活というかどういう形で生活を成り立たせているのか?とか、どういう芸人がいるのか?とかそういった話はちょっと薄い感じがする。ただ、この生活が楽しいという感じがすごく、伝わってくるいいエッセイだなと思う。

 

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