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エッセイ【渇き……】

「お金がない時って、渇くよね……」とよく、昔の恋人は言った。僕は貧乏だったという理解があまりなかったというか、貧しい時代ではないけど、貧しい時代を生きた人物(僕らの親世代ね)が多かったので、そこらへんの話をすると逆に「俺はな……」と貧乏話が始まるので、めんどくさいと喋らなかった世代でもある。

簡単に言えばスネ夫のようにお金持ち自慢をする人が多かった。「ファミコン買ってもらった」とか「漫画を買ってもらった」とかファミコンも漫画も自分で持ったのはバイトができるようになった高校生で、お金がなかったために大学には受かったが兄弟の仕送りのためにあきらめた話をすると、みんな「貧乏なんだ……」という目でみるので、そのことについて語ることを避けていた。

昔に付き合った恋人の家も貧乏だったらしいが、それに継母というのもあって、彼女は頭はいいのだけど継母との折り合いがわるく高校を中退して東京に出てしまったが、自分で働いて大検を取って大学を受け、働きながらと祖母からの仕送りも受けながら、奨学金とバイトで大学に通っていた。バイト先のコンビニで僕らは知り合った。

特に話をするわけでもなく、喫茶店で漫画を読んだり本を読んだり、少し喋ってはという関係で、体の関係も求めるわけでもなく、たまに僕の部屋や彼女の部屋でという感じだった。それでも1年ぐらい続いていただろうか、僕がコンビニのバイトをやめて、彼女がお笑いをしている芸人志望の男性といわゆる二股をして別れようとなるまで関係は続いていた。

「〇〇君って(僕の名前)、人生に頑張るってことないよね」とか「お金がないって渇くよね……」とか不思議な言葉をよく僕に問いかける彼女だった。その彼女に「渇くってなに?」と聞いたことがあった。すると

「夏になるじゃない。すごくビールが飲みたくなるじゃない」と言った。

「喉が渇いて渇いて……だけど仕事だから飲めないじゃない」

「ふむふむ」と僕が相づちをうつ。

「その感覚に似てるというか、お金が入ると潤うことを知ってるから、頑張って働いてお金もらうと潤うのと我慢して我慢してビールを居酒屋で飲むのとなんか似ているというか……」

僕はお酒が苦手なので、炭酸飲料で想像してみたけど、渇きをそんな感じで我慢したことがなかったのであまりイメージがわかなかった。

彼女はスナックで夜のバイトもしていた。そこでバイトのお笑い芸人志望の大学生と知り合ってとなるのだけど、別れ話をしている時に何故かその話を聞いてしまったために別れ話もうやむやになってしまい。「じゃあね」という感じでいつも行っていた喫茶店で僕らの関係は終わった。


彼女の新しい恋人はヒモ志望のダメ芸人の部類に入る人だったらしく、彼女のアパートに転がりこんで大学にも通わずにテレビゲームをして暮らしていたという。

僕が新しく始めた仕事が営業職で、接待というかで彼女のバイトしていたお店を使うようになって偶然というか再開するまで、ここも1年ぐらい間があいているのだけど、特に気になることもなく普通に「やあ」と再会して生活をしていた。

「このあと、ちょっと話してもいい?」と言われ、深夜のマクドナルドで彼の話を聞かされたりするようになったけど、特にそこでなにかが始まるわけでもなく僕らは夜中のマックで少し会話をするだけの関係だった。

「そろそろ就活しなくちゃで、彼氏を追い出すのを手伝ってくれない」

と相談をうけて、「いやだな~」といいながら、彼女のアパートにいったときに彼は別れるのは嫌だと泣いていた。プレイステーションの鉄拳のゲーム音がすごくうるさかったを覚えている。

結局その日では解決することなかったが、彼女がそれなら引っ越しをしても別れるというので結局その芸人志望の彼は彼女部屋をなくなく出て行った。

「スッキリした」と居酒屋で生ビールを飲みながら僕にいった。お礼にと誘われたからだった。僕も少しは(なめる程度)飲めるようになっていたので初めて居酒屋でサシ飲みとなった。

ちょっとアルコールがまわってきたときに、「実はさ……」と語られた彼女の話が少し衝撃でビックリした。彼女の父親は彼女の本当の親でなく本当の母親の再婚相手で、母親が早くになくなりその父親と二人三脚で生活していたけど、それが継母には余計に疎ましかったらしい。

「血がつながってないわけよ、二人が仲いい仲いいっていっても、そういう目で見られたら抵抗って無意味なわけさ……」

小学生の高学年までは一緒にお風呂に入るなかだった。無骨で不器用な大工の父親の背中を「本当のお父さん」と思っていたらしい。成績がよく自慢の娘だと周りに言うのが恥ずかしかったらしいが二人で仲良く暮らしていた。

中学を卒業後に近くの進学校に通い始めた。高1の時に今の継母と知り合って高2の時に一緒に暮らし始めるのだけど、父親が再婚の際に打ち明けた事実を継母は受け止められなかったらしい。

「疑い始めるとさ、親子の会話でさえ疑わしくみえるらしくってさ……」

「なんだろうね、血の関係ってさ」

小学校に入る前に父親になったため、現実的には知っていたけど、特になにも問題がなかったらしい。母親が具合を悪くして入院となったときも父親は献身的な介護をしてくれたと祖母は彼女にいった。ただ、継母が妊娠して子供ができたことが決定打となり、信頼してた父親も最後は一緒に暮らせないとなったらしい。

「なんかバカらしくなってさ……」

「高校通わなくなって成績も落ちたから、いっそと思って美容師になるって嘘ついて東京で生活を初めて……」

彼女は埼玉県で電車で1時間かからないところに両親は住んでいたし、隣町で生活程度に考えていたらしい。人づてでルームシェア募集の人を探してそこに住んでバイトを始めながら今にいたった。

「もし、継母がそんな変な考え方しない人だったらとか、父親がもう少し威厳ある人だったとか、血が本当につながっていたらとか……」

「東京で一人暮らしをしたときに不安で不安で…息が止まりそうになって、街中をさまよって夜中にずっと歩いていた時もあった」

「だけど、結局、2年ほど変わっただけ、大検とって予備校通って受験して,..それだって2浪したと思えばね…」

「たださ、お父さんって背中にぎゅ!ってできなくなることのほうが何故か苦しいわけよ……」

「〇〇君(僕の名前)もさ、結局、苦労したって何にも変わらないわけさ、自分がなりたいものにしかなれないわけよ」

「だったら、そんな偏見の目でみてさ、人生を変えるような衝撃を与えないでもらいたいと思うわけよ……」

すこし彼女は酔っぱらっていた。こんなに喋る人だったんだなと……ジョッキのビールをみながらそう思った。


フラフラになりながら彼女のアパートに彼女を送りとどけると、「泊っていく?」と言われた。

「へんな意味じゃなく、なんか恋人でいないときにこんな話きけたから、このままでいいかなと思うんだよね」

と返すとすかさず、

「その賢者モードが嫌だったんだよね…さめてるっていうか」

と笑って言った。

「ただ、寝ていくというか夜中だからって意味だよ……」

と言われて、「偏見だったね。ごめんね」と返事をすると、彼女は笑って「バイバイ」といった。

そのあと、何故か彼女を一人にしてはいけないと思ってアパートで雑魚寝をした。ただ眠たいというのもあった。他の人からみればと今になって思うけど、それさえもどうでもいいなと思える歳になった。


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