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読書日記174 【しゃべれども しゃべれども】

 佐藤多佳子さんの作品。映画にもなっている。噺家(落語家)の話で、奇妙な因果で、会話ベタな人たちが、主人公の二つ目の落語家の今昔亭三つ葉から話の仕方のレクチャーを受けるという、奇妙な物語というか、ちょっと不思議なストーリーになっている。(そんなわけあるか~とツッコミたくなる入り口がある)

 ただ、東京の街並みや寄席など、都として続く演芸の世界観みたいなものが、しっかりと書かれるし、芸としての落語がひしひしと伝わってくる。出てくる落語は「古典落語」で、何人もの落語家が演じた芸を自分のものにしていく主人公、三つ葉の葛藤も書かれている。

 三つ葉の住む、吉祥寺の古家で、「話し方講座」と称して、落語を教え始める。関西弁の抜けない小学生の村林や吃音のある従弟の良、美人なのだけどつっけんどんな女性の十河。この三人に教えながら、三つ葉は落語の腕をあげていく。落語の腕が停滞していた三つ葉がこの3人に教えながら、成長していく様は読んでいてすごく清々しい。

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 映画のほうも東京の古い街並みをうまく使っていて、噺家の生活感をすごく出しているのがすごく良かった。伊東四朗の落語がきけるのも、ちょっと面白い。国分太一の落語もしっかりと勉強したのか、ちゃんと聞けるものになっていた。

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 途中でプロ野球選手で引退をした湯河原という選手がその話し方教室に現れたときから、今度は主人公である三つ葉の落語へのスランプや十河との恋などに発展していく。十河が主人公の祖母の影響で、浴衣を自分で仕立てたくだりなどはすごく上手く表現されている。

 紺地に白い大きな胡蝶の模様を染め抜いた浴衣をするりと着て、半幅帯を貝の口に結んでいる。いつも垂らしている長い髪は片側にまとめて編み上げて、別人のようにしっとりと粋に美しく見えた。
 十河は俺に気づいて、なんだか照れ臭そうにまばたきをした。
「よお」
 と片手をあげて合図したものの、俺はすっかりとまどってしまった。

 ベタと言ってしまえばそれまでなんだけど、そこらへんが王道をいっていて読んでいて心地がいい。映画は見たけど小説を読んでなかったので本を買ったのはいいけど、忙しくて読めなかった。読んでおけば良かったと思える作品。


 



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