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ばらがき 【 小説 】

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新撰組の面々の多摩時代、若き日の物語 ※ 表紙イラストはGATAGフリー画像のFadlyRomdhani様
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#山波敬助

ばらがき 10

ばらがき 10

「ひゅうっ……!」
 のど笛に突きを喰らった男の口から、木枯らしの季節のすきま風のような音がもれた。
 総司の目から、ぬら……、とあわい光がゆれ、大の男たちが、そろいもそろって後じさる。
 その速度の何倍もの速さで、総司の剣は突き進む。相手に断末魔の叫び声さえあげさせず、一気に三人を屠った。深々とささった剣がぬけると、びゃっ、と赤い飛沫が周辺に飛ぶ。まるで、豪雨のように。
「ひぃぃ!」
 使い古し

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ばらがき 8

ばらがき 8



 作戦の大本を練るのは土方が請け負い、そこに納得するだけの肉つけは山南が行うことになった。
 その間、近藤は総司のもとに行き、源三郎とともになだめ役にまわっている。
 土方は本能的な閃きは群を抜くが、細かいところにまで目が行かない。
 山南は、あらゆる隙間を封じるのに長けているが、度肝を抜くような思いつきはできない。
 だから、この分担は至極理にかなっている。
 ――さて、どんな策略でくるの

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ばらがき 5

ばらがき 5



 その日は家に帰るなり、はじめ少年は家の裏にまわった。そしておもむろに、洗濯の用意をしはじめた。
 大だらいに井戸からくんだばかりの冷たい水をたっぷりとはり、洗濯板にむかって腕を上下に動かしまり、かたく絞った後、物干しにしている竹竿に等間隔でぴしりとほし、一枚一枚、ぱんぱんと手のひらで叩いてのしながらしわをけしていく。最初は背伸びぎみに、そして最後の方は屈んで、余すところなく伸ばすのである。

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ばらがき 4

ばらがき 4



 走り寄ってきた姉を慌てて押し留めて、むりやり方向転換させて家に帰るように言い含める。
 と同時に、はじめ少年は土方のもとに戻ると、やにわに深々と頭をさげて入門を願い出た。
 ――どうにでもなれ。
 八方ふさがりの中、勢い、というよりも、その場をしのぐつもりでの入門願いだった。自棄のやんぱち、という言葉の意味を、はじめ少年はこのとき初めて身にしみて知った。
 はじめ少年の形相に鼻白んだ土方だ

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