日本BLドラマ「インディゴの気分」第5話を本気で見た

この第5話の分は当時のブログでは書いていなかった回でした。
確か書きながらデータが飛んだか何かで、心が折れたような記憶……と言うわけで、多分当時の感じ方とはまた異なっている部分があると思いますが、そのまま見て行きたいと思います。

第5話、副題は裏切りと哀しみの連鎖。

冒頭は、あの城戸が木島の処女作の担当を外れることになったことを知る場面。
何も聞かされていなかった木島は「どういうことですか」と社長に問い詰めます。
城戸は蒲生田先生の遺作の出版権を勝ち取ることができれば系列会社への転職を約束していた。

社長が部屋を出た後、木島は表情に怒りをむき出しにして「君は最低だ」と言い放つ。部屋を出て行こうとする木島を城戸が必死に引き留めますが、振り払われる。
「いや、だから、ちゃんと話そうと思ってて……タイミングがつかめなくてさ」「僕は……二つの事にキレてる。一つ目は君が黙ってたってことだ。彼女とよりを戻したって。いつだよ?どの時点だよ?なあ」
ここの木島の表情と声色の作り方はすごかった。怒りの中にも悲しみと悔しさと色んな感情が渦巻く感じがすごい。
問い詰められた城戸は何も答えない。そんな城戸に木島は「……最悪だ、僕にこんなこと言わせやがって。死にたい気分だよ」と言う。そりゃあそうです。今までの気持ちを全て踏みにじられたわけだから。
「なあ木島」と手を伸ばした城戸に声を荒げて「触るな」と言う木島。そして城戸は「……もう一つは何だよ」と問う。
「もう一つは、君が自分の仕事にプライドがなくて、そのプライドのない仕事を僕に紹介したってことだ。自分の仕事をバカにするような奴とよく結婚できるな。それに、先生の原稿が転職の交換条件?仕事を取るために僕をだしにして……それもすべては結婚のためだったってことか!」
木島がここまで憤るということは、間違いなく城戸に対してすごく真剣にぶつかってきたと言えます。城戸のために文字通りに自分の身も心も全て使ってきた。
「最低だな、お前」と、平たく突っぱねるように城戸に吐き捨てるんだけど、ここで城戸と木島の世界が二つに分断したように見えました。
本当は住む世界の違う二人、木島はどうしようもなかった自分に手を差し伸べてくれた城戸と「つながる」ために健気に努力をしてきたわけです。
「でも、君って昔からそういう奴なんだろ?他人の顔色ばっかり窺って、自分の好きな事なんてできやしない。信念も貫けない……いやむしろ、信念なんかない!ペラッペラな人間なんだよ」
辛辣な言葉を言われた城戸は木島を見る。
「なんだ、悔しいのか?信念はないのにプライドは一人前にあるんだ?」と煽る木島に、城戸は目に涙を溜めて言うのです。
「お前みたいになれるかよ。みんながお前みたいに生きられると思うなよ!世間なんか、将来なんか知らねえって顔で好き勝手にやって、空気も読まねえで……クソ……」
(それを許す特別な才能があって、情熱があって、孤独を恐れない強さがあって、お前みたいになりたかった)
城戸は掴みかかっていた木島の胸に顔を付けて「お前がいると俺は、自分が嫌になる」
木島は城戸の告白が心底ショックだったはずです。自分の気持ちは踏みにじられたうえに、思いっきり突き放された。
「気が合うな、僕もお前みたいな人間、反吐が出る。とっとと荷物をまとめて家から出ていけ」と言って出版社を去っていく。
ここはもう、個人的にものすごく刺さった。
才能があり、どこか浮世離れしていて、もう生活は二の次でも、自分の好きな事だけをして生きていく人間というのは確かに存在します。現代ではとても少ないけど、確実にいます。
木島のことがうらやましいに決まっている。特別な才能はなくてただ凡庸な人間には、どんなにやりたくてもできないことだからです。
私は完全に城戸側の人間だからか、余計に切なくなりました。
私の中で一番の自己表現は多分文章を書くことなので、物語を作る小説家やドラマを生む脚本家になりたいと考えるようになりました。今でもわりと真剣に書くことを仕事にしたいとは思っているけど、私にはいろんなことが足りないなと自覚しています。
だから早々と自分の気持ちに折り合いをつけていくようになって、大人になってからは特にこの無慈悲な社会に潰されないため、バランスを見て、社会人として淡々と日々の仕事をこなしていくことを覚えなければならない。でも結局のところ、大人って誰しもそういうものなんじゃないかなとも思うんですよね……。子供の時に将来の夢とか聞かれた時、夢を見られるのってあの頃だけだったんだな……みたいな……。
悪い意味でもいい意味でも、きれいごとだけで生きてきた木島にはどう説明しても分からない感覚なんじゃないかと思います。これはお互いにもどかしい。

外は雨の降っている蒲生田先生の病室。
木島は書きながら蒲生田先生の様子を気にしている。蒲生田先生の様態は日に日に悪くなっていくばかり。
ある日、城戸は蒲生田先生の病室を訪ねる。
蒲生田先生は「まだ原稿渡せなくて悪いな。もう少しで完成なんだけどな、どうも集中できなくてな」「先生の気の進むように……何なら未完でも出しますんで」「ああ、そういう契約だったなあ。商魂たくましい……お前、この仕事が終わったら出版社退職するんだってな。理生から聞いたよ」「すみません……」
「そんなもんだよ、仕事なんだから。少しでも条件のいい方に行くのは普通だろう。気にすんな」「……はい」
蒲生田先生は「ただなあ……お前、あいつとは学生の時からの付き合いなんだろ?仕事とか抜きで、これからもあいつの力になってやってくんねえかな……俺な、あいつのことが心配なんだ。まあ確かにあいつもいいものを書くんだけど、もう少し力を抜いたほうがいいって言うか、もっと図太くなんねえとつぶれちまう。だから、頼む。あいつのことを頼むよ」と城戸に木島のことを託そうとする。
「はい、俺にできる限りのことを」「……ありがとう」「いえ……」
すると、蒲生田先生は泣きながら「悔いなんてねえと思ってたのによ……お前のせいだぞ、城戸。てめえの、軽はずみな思い付きがこんな、こんなに……責任取れ、なあ」
「大丈夫です、あいつのことは、大丈夫ですから……」「頼むよ、なあ。頼む……」と必死に言うわけです。
まさか蒲生田先生がここまで木島のことを考えて心配するとは思ってもなかった城戸は、流されるみたいに「あいつのことは大丈夫」って言っちゃうあたりもすごく分かるな……。
この時の城戸はマジで何も考えてないと思う。蒲生田先生に考える余裕を奪われている。
「(しんどい、でも……あいつはもっと……)」
城戸は病室を出て、覚悟を決めるのでした。

転職の件を断って、今の出版社に残ることにする城戸。
社長に「うちで作ってるものが好きなんです。お願いします」と頭を下げる。社長は笑いながら「なるほどなあ……やっぱりそうだろ?うちの会社だって全然悪くないんだ。こういうくだらないもの作ってられるのが平和な会社なんだからよ!」と言う。
ここで、私はまさかの社長の中の信念とプライドを見ました。どこかでバカにされても、蔑まれても、うちの会社は悪くないと表に出さずともちゃんと思っているところ。
あれ?なんか急にかっこいいな社長。社長は話を付けてきてやると言って出ていく後ろ姿……いや急にかっこよ……。

夕暮れの屋上でたばこを吸う城戸。「(これで、よかったんだ)」
ここ……ここが……すごい……演出が俳優の表情への圧倒的信頼です……強……。

病院に駆けつける城戸。なんと蒲生田先生は昏睡状態で二日目。
なんで早く言わなかったんだと木島をとがめると「うるさいなあ」と言われてしまう。
「お前寝てないんだろ?ひどい顔してるぞ」「ほっといてくれよ」「意地張ってないで少し休め。な?」「嫌だ」
そして木島を隣のベッドで寝かせようとする城戸に「その間に何かあったらどうするんだよ!!」と掴みかかる。
あの蒲生田先生が心配していた、木島の張り詰めているところがすごく如実に出たところでもあるなと思った。
覚悟を決めた城戸は取り乱すことなく、木島の腕を掴み「大丈夫。すぐに起こしてやるから。交代しよう。な?」と言って木島を寝かせる。

隣のベッドでひと眠りした木島はナースの声を聴いて目を覚まし、起き上がって城戸の隣に座る。
「眠れたか」「うん、少し」
ここの後ろ姿のカットが超良い。いや語彙は?って感じですけど、とにかく超良いの。
城戸「……謝ろうと思ってた。色々悪かった。俺はお前に誠実じゃなかった」「謝らなくていいよ、別に。僕が自分勝手にバカな期待をしただけだ。君には君の事情があるんだろ。分かってる」
なんかこう、二人の背中を見てると一つにはなれなかった二つの世界がすごく寂しそうで切なかった。
「城戸……来てくれてありがとう。正直、一人で耐えられそうになかった」
ここで城戸が木島の肩に手を乗せ、肩を抱いて引き寄せるんですけど、なんかこう異なる世界は一つにはなれなくても手を取り合うことができる、というような画でした。そして布擦れの音がすごくいい。引き寄せられた木島は城戸を見上げて、その後に頭を預ける。
うわ、これが異なる存在を理解するということ……と急に哲学っぽい発想になってしまいました。
「先生と話したいことがまだたくさんあったよ。僕が昔、理想的な父親って言うものを夢想した時、それは先生みたいな人だったんだ……僕が愛する世界を愛し、理解してくれる人。そのことを話したら、ゲラゲラ笑ってたよ。俺みたいなやつがおやじだったら、絶対作家にはなってないだろうって。……どっちが良かったのかって言うと、分からないけどね」
いや深い。実は、相手の世界を理解すること=相手の世界を全て同意することとは限らない。理解できても受け入れられないことはある。そして異なる世界を持つ相手に惹かれたり、憧れたり、妬んだり、憎んだりすることにつながっていく。最近思うんですけど、こういう感情の揺らぎこそが創作を生む原動力になってるような気がします。だから自分以外の人間と関わることは面白いんだよね……何の話か分からなくなってきたので話を戻します。
木島は肩から頭を起こし「5日くらい前からだんだん喋ってることが支離滅裂になってきてさ……先生の、明晰な頭から、どんどん言葉が失われていくのが分かった。もう……元には戻らないんだろうなって……」と静かに涙を流しながら言うのです。
「つらかった……でも、先生にはもう、必要ないんだよね……そういうものは……」
ここで、蒲生田先生にとってもう言葉は必要ないと捉えた木島はすごかったですね。必要ない。
私は人間にとって言葉が必要なくなる時が来るなんて、今まで考えたことなかったからすごく寂しくてインパクトのあるセリフでした。
はたと自分が泣いていたことに気付いた木島は頬に流れた涙をぬぐうと席を立つ。そして城戸に背を向けたまま、静かに言うのです。
「先生の原稿できてる。僕が預かってるんだ。多分、しばらく忙しいだろうから、少し落ち着いたら取りに来てくれないか」「ああ、分かった」
病室を出て、崩れ落ちる木島の危うげなところが本当に美しかったです。普段、地に足を付けている生きている人間がこんな危うい表現できることありますか……。
「明け方、眠ったまま静かに息を引き取った」

といったところで5話でした。
いやあ、相変わらずすごい回でしたよね。初めて見た時にすごいショックとインパクトだった覚えがあります。この回で何を伝えたいのか、何を描写したいのかを私自身で受け止め足りないような気がしてものすごくもどかしかったです。
でも、今見ていくと少しつかめたような気がしなくもなく……人間との関わりのとても本質的なところ、相互理解という部分が大変深まりました(勝手に)。面白いなインディゴの気分……。
次が最終話の6話になります!
今回もお付き合いいただきありがとうございました~!

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