見出し画像

ケンタッキー食ってたら心の中の阿部寛が演説を始めた

先日の晩。
奥さんは用事があり外出、家には僕ひとりだった。僕は密かに企んでいることがあった(エロいことではない)


<<<ケンタッキーを腹いっぱい食ってやろう>>>


ケンタッキーというのはケンタッキーフライドチキンのことである。
いや、あなたが言っているのは三宅健と滝沢秀明のアイドルデュオ「KEN☆Tackey」のことだ。全く違う。

僕にとってケンタッキーフライドチキンは、暗闇に差す一筋の光、ドブに咲く一輪の花、オッサンばかりの職場にいる化粧っ気はないけど美形で優しい30代後半の事務員さん、、、そのような存在だ。
疲弊した毎日のなかにある、ひとときの癒しなのだ。

嗚呼、今すぐ大量のケンタッキーを摂取したい。奥さんのヒンシュクを買いそうなので普段は控えているが、今日は家にひとり。そう、ひとりなのだ。


***


我に返った時には眼前に6ピース分の鶏骨が散らばっていた。
11種類のスパイスとハーブが食欲を暴走させた。もしかしたらヤベェハーブが混入しているのかもしれない。

毎回買うたびチキンのサイズはまちまちなのだが、今日は大きいチキンがたくさん入っていた。僕の応対をしてくれた店員さんがいる方角に会釈をし、手を合わせる。バイトさんのようだったが明日から社長で良いと思う。

そういえば会計のときケンタッキーと全く関係ないポイントカードを出してしまって申し訳なかった。バイトさんは嫌な顔ひとつせずやんわりと間違いを教えてくれた。明日から2代目カーネルサンダーズ襲名で良いと思う。
思わず「カーネルサンダース なるには」でググってしまったが、有益な情報は全く得られなかった。


暴食への微かな背徳感に目を逸らしつつ、僕は7ピース目に食指を伸ばした。
食べ進めるうちに、頭の奥から何やら声が聞こえてくる。やはりヤベェハーブだったのか。


「身体に悪いぞ…太るぞ…病気になるぞ…死ぬぞ…太るぞ………」
これは僕の頭の奥にいる健康原理主義者たちの声だ。潜在意識下で僕の不摂生を咎め、あろうことか脅してくる。


健康原理主義勢力の脅しは苛烈を極めた。僕は彼らに屈し、チキンを皿に置こうとした。
だが次の瞬間、僕の心の中の革命戦士(チェ・ゲバラ的な彫りの深いヒゲオヤジ。ほぼ阿部寛)が叫んだ。

「欲望に忠実でなければ、それは生きていると言えるのか。私は生きるために生きているのではない。悔いなく死ぬために、この一瞬を生きているのだ」

「賢く生きるために、正しいことはいくらでも言えるであろう。しかし、正しさから外れてしまう矛盾が人間を人間たらしめるのだ。矛盾こそが人間の美しさなのだ。矛盾を愛せ。矛盾を受け入れるのだ」

「中性脂肪が何だ。コレステロールが何だ。我が体内を流れる赤き血が水溶き片栗粉のごとくトロミを纏おうとも、誇り高き我が血は決して穢れないのである」

「食べても運動すれば良いのだ。ご時世的に普段私はテレワーク革命戦士であり、不動明王のごとく座椅子から微動だにしない生活を送っているわけだが、まずは腹筋・スクワットから始めれば良いのだ。3日坊主?そんな坊主すぐに殺してくれるわ!」

「ああそうだ!悪いか!私はいま猛烈に肥えている!自分でもガッカリだ!ビジュアルの劣化が著しいのだ!ついには親戚から親父に似てきたと言われる始末!」

「貴様たちは口を開けば『野菜、魚、運動、規則正しい生活』だな!規則正しい生活なんて現代人にとっては夢想だろう!規則正しい生活が本当に正しいのか?毎日規則正しいヤツなんてどう考えてもサイコパスだろう!」

「ああ本当は分かってる。お前たちが全て正しいことなんて分かってるんだ!でももう歯止めが効かねぇんだ!このままじゃスマホサイトによく出てくる訳分からん変なサプリに手出しちまうぞ!」


***


自分との会話で取り乱してしまった。
ほぼ阿部寛が白目を剥きながらサプリを注文していたところから記憶がない。



今度は10ピース食べよう。












この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?