土曜日だけの訪問ヘルパー④~正義のヒーロー~

訪問ヘルパーの初回は
先輩と利用者さんのお宅へ行き
自己紹介もそこそこに
インターホンは外側のを鳴らすとか
鍵は上だけかかっていますとか
これはここに入っているなど
次に入るヘルパーさんやご家族との
連携を間違えないようメモを取って覚えていく

2回目は、お家までの道順を
覚えてるようであれば
先輩とは直接、利用者さんのお宅の前で
待ち合わせをするのだけれど
なんと言っても私は方向音痴

初回なんて
涼しい顔で自転車こいでる先輩に
追いつくだけで必死すぎて
なにも見てないから分かる筈もなく

どこを走ったか覚えてませんと
泣きをいれ先輩の先導で
事務所からご一緒してもらった

そうそう、なんかここ通ったよねくらい
まだ不安8割

3回目はさすがに道を覚えてませんとは
言えなくて「一人で大丈夫?」と聞かれ
心で泣きながら

自信はありませんが頑張ります

と伝えた

そうして初めて一人で向かった
利用者さんのお宅は
風景を楽しむどころか必死の形相で
この建物は見たことあるかもくらいの
うすい記憶判定をしながら通りすぎていく

川沿いを走ってしばらくしたら公衆トイレが
出てくる筈だから

筈だから...

...そもそも、しばらくって何分位がしばらくだっけ
しばらくってなに?

あった公衆トイレ!

で、それを左手に見ながら
もう少しで橋があって...

橋があってその上に

   
ん?...先輩!?
 

さえさ~ん、おはよ~
ここくらいから分かりにくいかなと思ってー

なんと橋の上に先輩がいたのだ

鳥肌がたった
会えるか会えないか分からないのに
時間と通る場所を予測して
わざわざ待っててくれるひとが
いるんだと

それも遠くから私がきても分かるように
橋の上から!

それからも迷子になったらと心配して
待ち伏せをしてくれていることが何度もあった

時には、次のお宅へ行こうと
自転車を走らせていると

ここ、通るかなと思って
そう言ってベンチに座って待ち伏せしてくれたり

ここの焼き芋好きなのよねと
焼き芋を買ってくれたりした

そうした時間のなかで
利用者さんの些細な変化や
昔はこういう方だったのよとか
何が好きとか嫌いとかをよく教えてくれた

そのお陰で利用者さんの背景を知り
理解できたこともたくさんあった

先輩がいつも待ち伏せするのは橋の上で
まるで正義のヒーローみたいに
お日様がさんさんと先輩を照らしている

ある時ふと
どうしていつも橋の上なんですかと
聞いたら

わたし、寒がりで
ぽかぽかして
気持ちがいいんですもの

ですって

正義のヒーローは
私を遠くから探してた訳ではなく
寒がりだった

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