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今でもロックンロールは鳴り止んでいない

2021年の2月、俺は塾をズル休みした。
その日は一応病み上がりだったけど体調はほぼ回復している状態だったし行こうとしたら全然平気で行けた。けれど母親に体調悪くなってきたから休むと伝えた。

勿論これは嘘でただの仮病。なぜあの日俺はズル休みをしたのか、正直今も分からない。急に全てどうでもよくなったのか、それとも窓のない薄暗い自室で布団にうずくまっていたかったのか。自分のことなのに今でも真意が不明。俺は学校と塾には皆勤で行くぐらい真面目だったから多少悪いことをしてるとは感じていた。

当時はそれまで友達だった人達が俺から離れ始めたり、漠然とした将来の不安、学業不振やこれと言ったアイデンティティがないことによるコンプレックスに苛まれ始めた時期だった。俺はマジで何してんだろうな、と思いながら布団に包まりながら適当にYouTubeを見ていた。おすすめ欄に神聖かまってちゃんの「ロックンロールは鳴り止まないっ」のライブ映像が出てくる。

過去に神聖かまってちゃんは「るるちゃんの自殺配信」の自主制作mvだけ見たことがあった。ただ、声が男かも女かも分からないしそもそも俺が好きなロックバンドかも分からない。しかも電車で女装して迷惑をかけながら歌っている。その時は気持ち悪いと思って動画を視聴するのを途中でやめた。それと、当時放送していた進撃の巨人の「僕の戦争」で神聖かまってちゃんという名前に既視感を覚えていたけど、変な曲だと切り捨てた。

「ロックンロールは鳴り止まないっ」は知らない曲だったしなんとなく動画を開いてみる。
綺麗なピアノの和音とギターの轟音から曲は始まった。




ボーカルのの子が綺麗とは言えない声で叫ぶようにこの歌詞を歌い上げる。気持ち悪いとしか思っていなかったバンドのに本当に、本当にカッコよく俺の目に映った。今までに感じたことのない高揚感が沸々と湧き上がってきて、急に目頭が熱くなる。感情的になって震えが止まらなくなった。嘘みたいな話だけど本当だ。

その後も支離滅裂で何を言ってるか分からないmcと命を削るような声で「yeah!」と何度も何度も叫ぶ。なぜか俺も今すぐその場で「yeah!」と叫びたくなった。

メンバー全員が汗だくで衝動に任せて演奏をしている。の子はガンギマリになりながら叫び続ける。もうめちゃくちゃだ。めちゃくちゃなはずなのに本当に最高すぎる。客席の方へ降りたの子が客と間違えられてスタッフに抑えられる。最後まで歯切れも悪いし支離滅裂なのに俺はこのライブ映像だけでロックンロールの、神聖かまってちゃんの虜になってしまった。

そう、俺は「ロックンロールは鳴り止まないっ」の歌詞のように、最初は気持ち悪いとだけ感じて何がいいんだか全然分からなかったけど、弱った心に本物のロックンロールを浴びて神聖かまってちゃんが大好きになった。

続けて「23才の夏休み」の放送事故や「るるちゃんの自殺配信」のmvを見てみる。「ロックンロールは鳴り止まないっ」を聴くまでの俺なら、どちらも周りの人間たちに迷惑をかけていて気持ち悪いと思うはずだ。しかし社会や常識に反抗し続ける姿勢や、俺のようなナードがもつフラストレーションを歌詞や行動にぶつけてくれる彼らが最高だと思えた。

「ロックンロールは鳴り止まないっ」を聴く度に俺は初めて気がついたあの時の衝撃を鮮明に思い出せる。
今でもロックンロールは鳴り止んでいない。

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