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アイドルになったと思ったら、転生してた話。

先日、桃の妖精さんの魔法が解けて、私はアイドルではなくなっていた。

アイドルとして過ごした2年ほどは、私にとって雲のような霧のような虹のような、近くにあるのに掴めないようなそんな日々だった。

どうやら私はあまり社会に適合していけないタイプのようで、今まで、小中高と気づいたらいじめられていたり、塾講か家庭教師という業種の縛りはあるものの、1件のバイトを長く続けたりすることはできなかったり、合わないとか嫌だと思った学校をポンポン辞めてみたり、まあまあ最悪な社会性を持つ人間として生きてきた。

だから、アイドルも多分長続きしないんだろうなと思っていた、というか、デビュー前はアイドルになっている自分がそもそも想像できなかった。

私の心は脆弱だ。

どのくらい脆弱かというと、確認しましたの3行メールを返信するだけで相手のことを考えてしまい30分くらいの気合いが必要なくらい。スーパーで万引きして怒られているおじさんとその店員さんの横を通っただけで吐き気がするくらい。

まあ簡単にいうと結構なHSP(Highly Sensitive Person=とても繊細な人)なのだが、それゆえにアイドルとしてやっていくなんてとんでもないなんて最初は思っていた。

私は元々小学生の時、AKB48グループにハマっていたけど、現場とかに行くことはなく、アイドル=別世界の人で、むしろ同じ世界に存在してるのかレベルの認識だった。

じゃあなんでアイドルになったの?って感じだと思うのだが、私の場合はアイドルになりたくてなった、のではなく、いつの間にかアイドルになっていた、という表現が正しい。

そもそも、私が前世で所属させていただいていた事務所に入るきっかけも、偶然の産物であった。

それまでこの業界に対して、私は遠い存在だと思っていて、高校生の時に竹下通りでタピオカ飲んでたらスカウトされたくらいで、自ら何か女優になりたいとか、タレントになりたいとか、ましてやアイドルなんて夢にも思わなかった。(ただ、小学生の時に友達に誘われて、当時話題だったAKB48のチーム8オーディションに応募した経験はある。スマホすら持っていない当時小学生の私は、雨の中親の付き添いもなく1人で紙の地図を持ってオーディション会場だったフジテレビに、寝坊した結果遅刻しそうで半泣きで向かった記憶がある。三次審査で落ちたけど、同じ会場で見た小栗有依さんが可愛かったなあ…という思い出…笑)

私がこの世界に入ったのは、大学1年生(今私は東京学芸大の2年生だけど、以前は理科大に在籍して再入学しているので、理科大の1年生の時ね)の時だった。当時、私は先輩とお食事をしていて、先輩は結構酔っていたんですよ。(あ、断じて私はお酒飲んでないですよ、念のため)そんで、酔った先輩がノリで言った

「可愛いからなんか事務所応募しなよ〜」

この一言が、まさかその後の私の人生を大きくひっくり返すことになることに、まだ私は気づいていなかった。

その場にいた先輩数名が、なんとなくノリ気になってしまい、私も相手が先輩ゆえに断れず、その場でそのまま数件の事務所にメールでプロフィールと写真を送ってしまった。

そしたらたまたま数社の事務所にご縁をいただき、その中の1つが前所属事務所であった。何個かの選択肢があったものの、運が良いことにどこも費用がかからず、同じくらい魅力的だったので迷ったけど、女子大生部門がある、という単純な理由から私は前籍の場所に身を置くことにした。

そんな感じで始まった芸能活動は、別に最初は強い意志もなく、本当に軽い、なんとなくの気持ちで始まったものだった。

だから、私はふわっとした気持ちで事務所に入って、日々送っていただいていた案件のメールに返信して、みたいなことをしつつも、世間一般の理科大生のイメージに合致するようなレポートに追われる生活を送っていた。

数ヶ月が経った日、ある1通のメールが送られてきた。

それは、
①事務所の女子大生部門のyoutubeに出演するメンバーの募集
②アイドルグループ結成にあたってのメンバー募集

が並列して書かれていたもので、どちらかを選ぶものだと思って私は①だけを希望したし、なんならオーディションに出向いた際に、マネージャーさんに「白桃さんはアイドルって感じじゃないもんね〜」とお墨付きを頂いちゃうくらいに、アイドルになる気はさらっさらなかった。

プロデューサーさんとお話しした結果、晴れて私は合格をいただき、youtubeのメンバーとなった。

それだけ、のつもりだった。

ところが、月日が経つにつれ、YouTubeメンバーとして集められていたメンバー全員に曲のデモが渡されていて、振り付けの動画が送られてきて、え全員デビューするんですかこれ?みたいな気でいたらmystaのバトルがいつの間にか始まっていて、本当に本当にデビューに向けてのレッスンが始まってしまったのである。

そんな経緯でアイドルになったので、正直なところ、最初はアイドルに対して何か熱意がある、とかはなかった。

私の前世をご存知の方はその公式youtubeを見ていただければおそらくまだ残っていると思うのだが(自分だと恥ずかしくて見られないので興味ある方は確認してみてください🫣)デビューライブの映像がある。

そこには、今の私とは違う、よちよち赤ちゃんアイドルだった私がいると思う。アイドルに対して何の芯もない、弱々しい人間が。

****
月日は流れた。

2年間で私は変わった。仲間と共に様々な喜びとか葛藤を経験して、前世のグループは私にとってかけがえのないものというか、ある一種アイドルがアイデンティティの一部とさえなりつつあるまでになった。

ありがたいことに、私を知ってくださる方、好きだと言ってくださる方が増えた。青春の2年間を過ごし、一緒に泣き、一緒に笑った仲間が出来た。

芸能の仕事を続けるうちに、その難しさと魅力、両方を捉えられるようになった。そして、それに情熱を向けられるようになった。

一方で、ここを離れるべきなのではないか、という迷いが出てきたのは、もう半年以上前のことだろうか。アイドル、というものに対して、今一自分が融合しないというか、安心して身を飛び込まさせることのできるクッション材が足りない気がしていた。雲に乗りたい、とか言うけど、実際雲は水蒸気なんだから乗れるわけなんてない、とわかっているような。

芸能界には多様なジャンルがある。アイドルもそうだが、演技をとっても映像と舞台では全然違うし、広告にモデルにタレントにお笑いにと色々あるわけである。

「私はアイドルではないんじゃないか?」から、「私はアイドルじゃないな」と確信を持ったのが、今年の冬が過ぎようとしていたくらいだった。

一概にこれだという理由というよりは、様々な要素が複合的に重なってその結論に至ったわけで、だから卒業に関しては確固たる信念があった。タイミングはできればワンマンの時が良かったなとかもっといっぱい曲を披露したかったなとかはあるけれども、考えて考えて納得したから、後悔はない。

最後の最後の特典会、アイドルを始めた時の私からは考えられないくらい多くの方が「アイドル」としての私に会いにきてくださった。

今まで、孤独を感じることが多い人生だった。仲良しグループだというようなそんなものに属するとかしないとかいった孤独じゃなくて、ただ、どうしようもないような劣等感というか疎外感というものが私を渦巻いているという感覚がもういつからかわからないくらい幼い頃からあった。

でも、あの特典会で、私はアイドルとしてちゃんと愛していただけていたんだって実感できた。

孤独じゃなかった。

私は孤独なんかじゃなかった。

アイドルになって良かった。

成り行きでなったアイドルだったけど

アイドルになって本当に

良かった

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最後の特典会でよくかけていただいた言葉は

「またね」

だった。

そう、

私はアイドルから転生しても、この世界に残るつもりである。

最後の最後にプロデューサーさんに挨拶をした時に返ってきた言葉は「個性的な君は」というものだったから、この特殊な業界においても私はとりわけ宇宙人らしい。

マネージャーさんに「あなたは不思議ちゃんキャラというかもはやキャラでもない」という言葉をかけられてしまうくらい私は異空間ワールドを作り上げてしまう人間という烙印を押されてるし、メンバーに私って不思議ちゃん?って尋ねて否定された試しがない。

それを「個性的」というプラスのくくりで見てくれるこの業界は、社会不適合者の私を救ってくれる可能性が、1mgくらいかもしれないけど重く大きくあるかもしれないと私は考えている。

だから私はここで生きていきたい。

アイドルから転生しても。

アイドルじゃなくたって。

きっとまた転生した私に必要として、会いに来てくださる方がいると信じて。


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