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コーポレートアクセラレーターを成功に導く存在「カタリスト」の役割とは?

ゼロワンブースターでは、5、6年前から「コーポレートアクセラレータープログラム(以下CAP)」を行なっています。これは、大手企業などが主催をしていますが、社外のスタートアップのバリューアップを支援するプロセスを通じて、自社のイノベーション創出を目指すプログラムです。
 
大手企業は、スタートアップへの出資やネットワークの紹介、社内ノウハウやリソースを提供します。そしてスタートアップは、新規性のあるアイディアとリスクテイキングな実行力・機動力を提供し、両社で共創します。大手企業は、CAPを通じて、自社だけでは実現できないイノベーション創出の可能性を高めることに加え、社内のイノベーティブ人材を育成し、イノベーティブな環境を醸成することを目指しています。

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その中で、近年イノベーション創出の担い手として注目を集めている、大手企業とスタートアップの架け橋となる存在「カタリスト」という職種があります。
 
カタリスト(Catalyst)は、元来(英語)の意味では、化学反応を促進する触媒、促進の働きをするもの、相手に刺激を与える人などを指します。投資の世界では、株価の変動をもたらすきっかけとなる材料のことを指すので、金融に詳しい人にとってはそちらの印象が強いかもしれません。
 
CAPなどのオープンな取り組みをしていない企業の中でも、最近は社内の人たちに刺激を与えメンバー同士を繋いだり、プロジェクトを円滑に促進する「潤滑油」のような存在としてのカタリストも増えているようです。
 
CAPでは、このカタリストがプログラムの成否を握っているほど、重要な役割を担っています。では実際にどのような活動をしているかというと、大きくは下記の4つが挙げられます。

1. 共創を開始するために、まずは共創先企業の文化や思想を深く理解する
2. 共創を模索するために、親和性の高い社内(大手企業側)リソースを導き出す
3. 共創を実行するために、両社を常に行き来し、社内リソースを円滑に動かす
4. 共創を継続するために、1〜3を継続できる社内環境を構築し、制度や文化になるまで育む

ハーバードビジネススクールの故クレイトン・クリステンセン教授は、イノベーションの定義として「一見、関係なさそうな事柄を結びつけること」だと述べていますが、カタリストは正にそれを成すための重要人物として存在しています。

カタリストに向いている人の共通点とは

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カタリストで活躍している人を観察していると、共通する特徴があります。

・経営陣が提示したイシューに対して、独自の観点で解釈し内省に繋げている(独自の哲学)
・それに対して仮説を立て、検証するための手段を整えるスピードが早い(仮説検証)
・社内リソースを広く把握しているのと同時に、各部署からリソースを引き出す術を知っている(政治力)
・社外に対しても広く弱いつながりを持っており、そこから新結合につながる人物に出会う(社会関係資本)

多くの企業を見ていると、各企業に上記の要素を持ち合わせた人物は少なからずいます。とくに営業職や企画職のように、日頃から社内外の多くの人と繋がりながら仕事を進めている人は、度合いの違いはあれどこれらの要素を持ち合わせています。

一方、上記の要素がある人でも上手くいかない場合があります。とくにCAPでは、独自の価値観をもとに事業創造しているスタートアップの人たちと新結合することがメインとなるので、思想の違いから様々な問題が発生しやすくなります。そこで、その中でさらにカタリストに向いている人の特徴を下記に挙げてみます。

・過去に社内新規事業を立ち上げた(or応募した)経験がある人
新規事業への熱量が高い人は、事業創造で立ち塞がる壁に対して、乗り越えようとする主体的な意志が働きやすいです。このような人は、スタートアップ側の考えに共感しやすく、架け橋となってプロジェクトを実行してくれる確率が高いです。

・スタートアップの事業領域に知見や興味がある人
共創先の企業がテーマにしている領域について、専門性・経験・興味関心がある人は、積極的に関わる傾向があります。また、そのテーマが専門領域であればあるほど、その傾向は強くなります。 

・強いホスピタリティ精神を持っている人
今や勢いのあるスタートアップは、引く手数多です。色々な企業から共創の話を持ちかけられ、選択(引き算)をしています。故に共創する際には、まずはギブの精神が不可欠になります。元々の性格特性で他者への貢献度合いが高い人は、スタートアップとの良好な関係を築きやすい傾向があります。

・スタートアップフレンドリーな人
挑戦する人を日頃から応援していたり、スタートアップの人たちに対して元々フレンドリーで理解のある人は、コミュニケーションが上手くいきやすいです。スタートアップ側もそれに気づき、親近感を持つので、仲良くなってプライベートで飲みに行くなど、深い関係性になる場面を度々目撃します。

以上4つの特徴になります。単一or複合的に上記の特徴を持ち合わせた人は、カタリストとして活躍する確率が高くなります。また、この条件に当てはまる人は、社内でカタリスト募集を行うと、自ら手を挙げプログラムの趣旨に賛同してくれます。
  
一方、逆にカタリストに向いていない人がいます。この人たちが万が一カタリストになってしまうと、スタートアップとの関係性が悪くなり、結果として共創は上手くいきません。故に企業としてはその特徴がある人を、カタリストに任命しないことが懸命です。向いていない人の特徴としては、下記の5つが挙げられます。

・起業家/スタートアップへの尊重があまりない人
このような人は、態度の節々に現れてしまうため、スタートアップ側は敬遠し徐々に離れていきます。スタートアップと一切関わったことのない人。新規事業をやったことがない人。性格特性から日頃他者への尊重心がない人。これらを持ち合わせた人は、その傾向があります。
 
・カタリストの機会を利用して、自分の評価を上げようとしている人
スタートアップとの共創の場を自分のキャリア構築のために利用する人、事業創造とはズレた目的で取り組む人は中々上手くいきません。スタートアップ側から不満が出て噛み合わなくなります。これは、上司から指名されてカタリストになった人で稀に見られる傾向です。
  
・知見や経験のない領域に対して、積極的になれない人
共創とは、「新しい組み合わせにより生産要素を結合し、新たなビジネスを創造すること」なので、異業種で専門外の領域と組み合わさることも当然多くなります。しかし、異業種との交流に対してネガティブで行動を止めてしまう人は、そもそも新結合を起こさないようにしているため、何も生まれません。
  
・「本業が忙しいので時間取れなくて…」と時間を作れない作らない人
カタリストの役割を担う人は、人事制度の関係でフルコミットではなく、既存事業との掛け持ちになることも多いです。その場合、中々共創の時間が取れない場合もあります。本当に忙しくて時間が作れない人、作ろうとしない人、どちらも共創の営みをすることができないため、カタリストに向いていません。
  
・相手の「時間=資産」を奪っている感覚があまりない人
事前に少し調べれば情報収集できることでも、すべてスタートアップ側に聞いて解決しようとする人。自分で作成できるものでも、スタートアップ側に作成や提出依頼をして自分の仕事を減らそうとする人は、カタリストに向いていません。すべての仕事に通じますが、相手の立場に立って考えられる想像力と思いやりを持ち合わせた人が、カタリストに向いています。

以上、日々多くの企業のカタリストの方々と接する中で見えてきた、「カタリストに向いている人」「向いていない人」の特徴でした。ちなみに上記でも少し触れましたが、企業でカタリストを任命する場合は、指名制ではなく挙手制をお勧めします。事業創造は本人の意志が何よりも大事であるため、その観点からも社内で募り、主体性のある人に任せることが良い結果につながります。
 
これからの企業の行く末を担うカタリストは、今多くの企業でその必要性を求められています。我々もそういった人たちと企業を支援することにより、事業創造の一役を担うことことができれば幸いです。
   
ご覧いただきありがとうございました。
  
(構成・編集・デザイン:辻こうじ)

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