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地域アイデンティティ、まちの個性化、観光は平和のパスポート

学生Q.次第に寒くなってきました。冬になるとやはりスキー場など、雪の多い地域に観光客は訪れるのでしょうか? 反対に沖縄など、比較的暖かい地域に観光客は訪れやすいのでしょうか?
コクジーA.どちらも正しいですね。若いスキーヤー達は待ってました、とばかりスキー場へ行くでしょうし、お年寄りはやっぱり暖かい所でしょうね。かつて春になると沖縄の観光業者が本土の中高年男性にこんなアプローチをしていました。「沖縄で花粉症を気にせずゴルフしましょう」。沖縄には杉や檜がありません。南洋杉という種類の木が街路樹として植えられていますが、面的な広がりはないし、杉花粉の飛散という現象は聞いたことないです。だから現代人にアピールするいいキャッチコピーでした。また、30年くらい前、北海道の東部は平地だし目立ったスキー場もなくて、観光客は激減していました。地元と航空会社や旅行業者が集まって、キャッチフレーズを考えたのが「五白観光」です。雪、流氷、丹頂鶴、白鳥、あと何だったか忘れたけれど、それで冬にも観光客が来るようにもなりました。言葉の威力も馬鹿にできないですね。

学生Q.昼が暖かくて夜が寒いので外出時の服装に迷います。東北の方はもう寒いんですよね。
コクジーA.寒いと言ったって、このあたりの冬なんか穏やかなもんです。私は零下20度になる朝だって、大学の一限目に出席したもんです。でも前の晩にどか雪が降ると、玄関先の積雪が膝上まであったりします。そうなると、アパートで同居している3人のご学友の誰かが除雪するだろうと思い、結局、次の日の朝まで全員寝ていたことがあったなぁ。

学生Q.オポチュニティ・コストを日本語に訳すとどういう意味になるのですか?
コクジーA.opportunty とは「機会、チャンス」といった意味です。それにcost がくっついて、経済用語としては「機会費用」といいかたをします。その意味は「ある生産要素を特定の用途に利用する場合に、それを別の用途に利用したならば得られたであろう利益の最大金額を指し、実際の生産額の費用とする概念」です。少しややこしいですね。要は「他の方法であれば得られた利益を失って初めて今の利益があるのだ」ということです。この「利益を失ったこと」を「コスト、損失」と読み替えているのです。本来、経済効果というのはそのような損失を計算した上で評価しなければいけない、ということになります。例えば、君がそこそこの美人と結婚できたとしても、そのために広瀬すずさんと結婚する機会を失うことになります。人生が暗くなるような考え方ですね。これに気づくとずっとやもめ暮らしをすることになります。

学生Q.観光の発展によって「いきがい事業」が生まれるということは大事であると思うが、観光する者としては、何かピンと来ない。いきがい事業を創出している県は多いんですか?
コクジーA.いきがい創出事業というのはあくまで、地域の住民のための政策であり、高齢化の進んだ地域を活性化させるための政策です。従って、観光客にいかに満足してもらうか、という命題は二義的なものです。ですから、君のように「ピンとこない・・・」という感想がでてきてもそれは当然だといえます。一方では従来のようなきれいな景色をみたり珍しい建築物を見たりするタイプの観光に満足出来ない人たちが「人との交流」を望むようになってきました。そういう人たちにとって、地域の住民や高齢者の「生きがい活動」が結構交流の媒体になっているようです。どちらもそれぞれの良さはあると思います。
 
学生Q.旅行の前後でも消費があるんですね。
コクジーA.私の奥さんは一昨年インドネシアのバリ島へ行った時、放し飼いのサルに噛まれて、帰国後、狂犬病の予防注射を3ヶ月くらいかけて4,5回受けるはめになりました。さいわい保険に入っていたので助かりましたが、そうでなければ数万円の「旅行後支出」となります。なお、狂犬病は発症してしまったら生存率ゼロですから、皆さんも外国では目つきの悪い犬やサルには気をつけましょう。現地で係員に「サルなんか放し飼いすんなよ」と日本語で言ってやりましたが、モグモグ言い返していました。「あんたも奥さん放し飼いですやん」と言ってたのかな?

学生Q.観光のオーバーフローについて。確かに観光客が多すぎて観光地の魅力が半減してしまうことはあるし、実際にその地域の人はいらだつだろうなと感じました。
コクジーA.事例で取り上げた神戸の代表的な観光地区として北野町の異人館群では、昔から住んでいた住民はかなり退出してしまったようです。毎日家の前をぞろぞろ人が歩き、下手するとのぞき込んでいく人もいる、というような状況になるとそれもやむを得ないでしょう。その後に観光業者やレストランを開きたい人などが進出してきます。お店などは洗練されてきますが、一方では「そこに住む人たちの生活」が喪失してしまったのです。昔はあのあたりはサリーをまとったインド人のご夫人が買い物にでかけたり、金髪の少女が学校帰りに英語の鼻歌を歌っていたりしていました。そういう光景が神戸の異国情緒を形成していたのですが、今はその面影はありません。

学生Q.観光の経済波及効果の所をもう少し説明して欲しい。
コクジーA.「波及」ということの意味合いだけは理解して下さい。経済効果は観光客が消費することによって生まれます。ごく自然に考えれば、観光客が1万円使うとすると、地域経済効果はそれと同じ1万円のはずです。しかし、波及効果はその1万円が元手となって膨れ上がっていくことを示しています。つまり、「波及」なのです。観光客が支払った1万円がホテルの収入になったとします。ホテルでは観光客を宿泊させるために様々な費用を支払います。従業員の給料やシーツのクリーニング代や食事の材料や電気水道代などです。そのためにクリーニング屋さんも儲かることになります。食材を納める業者も収入を計上します。食材業者はさらに鮮魚店や米屋から原材料を仕入れることになり、そうした鮮魚店や米屋も収入計上します。つまり流通していく1万円の累積総和が波及効果となるのです。

学生Q.日本人の観光と外国人の観光って何か違いがありますか? 先生が「紅葉狩りが嫌いな人が多い・・・」と言ってた様な内容で。
コクジーA.私の説明が不十分だったかも知れませんが、アメリカ人は紅葉狩りが嫌い、という解釈では困ります。アメリカでは「紅葉狩り」という形態の観光行動はあまり見られない、ということです。少なくとも「グループでバスに乗って、赤や黄色に彩られた山々をみて回る」という行動は見られません。でも多分、観光の対象ではなくても秋になれば「美しい景色だ」として感動する気持ちは当然あるはずです。いろいろな国の人の感動の中身を比較するって難しいですね。他の国と日本の違いとなると、たとえばフランス人なども「周遊観光」という観念はあまりないみたいです。彼らにとっては観光=バカンスで、忙しく動き回るのではなく、一カ所でのんびり過ごします。ドイツ人とフランス人は隣の国同士なのに観光の形態はかなり違います。ドイツ人は団体でも結構行動します。たとえばマレーシア半島のジャングルトレッキングなどはドイツ人の団体行動が凄く目立ちますが、フランス人は殆どいません。「あいつらはつるむのをいやがるんだぜ」とドイツ人はいいます。結構ドイツ人と日本人(かつての)は似ているようです。私が中国で体験したのは観光の対象への接近のしかたの違いです。たとえば滝を見るとき、日本人はかなり離れた場所に展望台をしつらえて周囲の緑も含めて一幅の絵のように眺めようとしますが、中国人は歩道を造って滝の裏側にまで入って楽しもうとします。それが全中国人に共通する行動様式かどうか分かりませんが。だいたい観光地での道の作り方を見ると、できるだけ近づこうとするようです。また、ある海岸にものすごい奇岩があったとします。日本人はこれを「自然の資源」として人の手に触れないように囲ったりしますが、中国で見た光景は、有名な詩人がその岩に赤いペンキで詩を彫り込んでいました。おどろおどろしい巨岩と優れた詩が一体となった「文化的な資源」に変化していくのです。

学生Q.僕は年明けにスノボ旅行に行くのですが、これは観光になるんでしょうか?
コクジーA.自宅の裏山で滑るのであれば「観光」ではありません。単なる「暇つぶし」です。それは冗談ですが、貴方の言う「スノボ旅行」はあくまで「広義の観光」です。広義というのは解釈の幅を広げる、ということです。厳密に定義すれば、つまり狭義には「レクリエーション行動」といえるでしょう。スノボ旅行は「狭義の観光」ではありません。「狭義の観光」とは「周遊して色々なものを見て回る観光」で通常私たちが「観光旅行」という場合はこちらの場合が多いです。繰り返しますが、広義の観光の中に2つの狭義の観光が含まれ、それは周遊観光(見る)とレクリエーション(する)である、ということです。

学生Q.先生は、「一方通行の標識の青が目立つからデザイン変えた方が良い」って言っててたけど勝手に変えられるんですか?
コクジーA.勝手には変えられません。道路交通法違反だと思います。私が言ったのは「公共のものにデザイン・センスのないものが多く、街並み景観を阻害している」ということです。消防署、交番その他、味気ないコンクリートの建物が多すぎます。

学生Q.もし、国立公園や国定公園の規制と利用を監督するのは自然公園法だそうですが、それに反した場合はどうなるのでしょうか?
コクジーA.あまり実刑の例はないようです。殆ど罰金刑だと思いますよ。ニュージーランドで聞いた話ですと、国立公園内の川で違反の鱒釣りをしていて捕まると(厳しい条件ですが、釣りのライセンスを得ることができる場合もあり)罰金約20万円と乗ってきた車の没収だそうです。車といっても高級車もあればおんぼろもあると思うのですが、要は「懲罰的に取り上げる」ということなのでしょう。公園の管理者には違反者を逮捕する権限も与えられていますから結構厳しいです。

学生Q.①なぜHISは低価格の国際航空券を発売できるのですか? またその逆に直接航空会社で国際航空券を購入すると高いのですか? ②なぜ日本国民は国内旅行をして自分の国のいろんなことを知ろうとせず、海外旅行ばかりするのですか?
コクジーA.①低価格の航空券を販売しているのはHISだけではありません。殆どの旅行会社が扱っています。航空会社は今まで顧客に直接航空券を販売することはありませんでした。店舗が殆どないからです。旅行代理店は航空券を販売して、その10%とか9%とかの手数料を航空会社から得ていましたが、航空会社はジャンボ機の導入などにより、大量販売が必要になり、パッケージ旅行の素材の一つとして旅行代理店に席をまとめ売り(卸売り)をするようになりました。これは返品の効かない航空券なので、旅行代理店はパック旅行の素材としてこれをなんとかすべて使い切らなくてはならなくなりました。しかし、どうしても売れ残りは出てしまいます。それを航空券だけバラして裏販売することになったのです。それが最初です。本来はルール違反なのですが、航空会社も旅行会社も利用者も皆利益を享受していたので文句も出ず、運輸省も黙認でした。ただ、色々な規制つきの航空券だけにトラブルも生じます。最近になって、IT化が進展し、ウェブ上でチケットが購入できるようになりました。そこで航空会社は「ペックス運賃」というものを直販し始めました。店舗がなくても販売できる訳です。これは正規の、しかもあまり制約のない格安航空券と言って良いでしょう。航空会社はペックスによって不明朗な「格安運賃」の一掃を図ろうとしています。例えば、日本航空のHPで「悟空」という項目を探してください。それがJALのペックス運賃の名称です。行き先、出発日によって価格は変動しますが、かつての正規運賃に比較して格段に安くなっています。これらは3年次開講の「旅行事業経営論」で説明します。②については私も感じるところなきにしもあらずですが、やはり外国となると自国との文化的落差は大きくなります。旅行者にとって、落差が大きいほど魅力は高まるともいえるでしょう。でもある程度海外旅行を経験してくると今度は反作用で国内回帰の志向も強まります。文化的落差に対して文化的同一性に浸ることの快さ、とでもいうのでしょうか。これはかなり個人的見解に近いですが、結局海外旅行と国内旅行のどちらが魅力的かというと、それは比較できるものではなく、ずっと並行して続くものなのだ、という感じがします。

学生Q.海外旅行に行った中で、先生はどこの外国の観光施設が一番よかったのですか? おすすめはどこですか?
コクジーA.卒業旅行などで友達と海外旅行へ行くのなら、やはりヨーロッパはどうでしょう。ヨーロッパでは少しの移動で多くの国の個性が味わえます。私は若い頃、「ベリーダンス、フラメンコ、ファド」を三大目的にしていました。ベリーダンスが一番大変でした。これは中東へ行かねばなりませんが、モロッコやエジプトではチャンスがなく、トルコで見ることができました。でも当地では太っている人ほど上ランクのダンサーだそうで、三段腹の踊り子さんでした。フラメンコは皆さんもよく知っていると思います。これはマドリードの居酒屋で見学しましたが、テーブルの上のイカのリングフライと赤ワインがうますぎて、あまりダンス鑑賞に集中できませんでした。ファドはポルトガルの暗い酒場でもの悲しげに謳われる民謡です。心にしみいるような歌で日本人の感性にもぴったりです。アマリア・ロドリゲスという女性がナンバーワンでした。こんな風にテーマを決めるのも良いですよ。リゾートは新婚旅行で行ってください。あまり動かなくて良いため、失敗やトラブルは少ないでしょう。あちこち移動するとトラブルに見舞われやすく、うまく処理できないと「成田離婚」になってしまいます。最近は女性の方が旅慣れているから、男性への過度な期待はそもそもないのかもしれませんが・・。社会に出て、生活力が出てきてからは開発途上国などの貧しい国へ行って、自分の置かれた境遇や世界のありようを感じてください。行ってつまらない国はどこにもありません。

学生Q.世界の中で一番、地域アイデンティティの特色が強いところはどこですか? また先生はそこに行ったことがありますか?
コクジーA.その質問は難しいな。アイデンティティが最も強烈に存在するのは政治や宗教の世界でしょうから、イスラエルとパレスチナかも知れません。一丸となってアメリカに対抗しているイラクだって一色ではありません。スンニ派、シーア派などばらばらです。パレスチナは民族の名であり、彼らの国はありません。ヨルダンという国の中に仮住まいの状態です。ヨルダンには行ったことがあります。今の国王の前のフセインという人は大変な親日家で極真空手もやっていました。そのせいもあって、日本人にも親切な人たちが多いです。ゴリゴリのイスラム教ではないのですが、それでも豚肉などは流通していません。ある中華料理店に入った時は鍵のかかる個室に案内されました。そこで我々は「麦のジュース」を注文します。ジャスミン茶を入れるような急須の中にそれは入っています。泡をたっぷり含んだジュースです。こんな物わかりの良いお店もあるほどに、やや開けたイスラム国です。でもやはり豚肉の使えない中華料理はつらかった。バレスチナ人には国がなく、大家さんのヨルダンにもめぼしい産業はありません。彼らは生きていく手段として「教育」を選びました。皆とてもよく勉強します。そして青年になると湾岸諸国やサウジアラビアへ出稼ぎに行き、稼いだ給料を家族へ送金するのです。それがパレスチナの産業なのです。オイルダラーでしこたま儲けているサウジアラビアやバーレーンの人たちはのんびりしたもので、公務員や教員や頭脳労働者など、この国を支えるのは圧倒的に出稼ぎパレスチナ人です。このサウジ・バーレーンといった「王国」「首長国」はいつか倒れる時が来るでしょう。今の世の中で、王様とその一族だけが良い思いをしている国などそうはないからです。サウジ・バーレーン、あるいはカタール、UAE、クェートなどの「体制」が何故倒れないか、というと「世界のエネルギーの源である石油が集中している所での政治的混乱は好ましくない」とするアメリカを筆頭とした先進国の思惑があるからに過ぎません。ところで対極のイスラエルには私は行ったことはありません。ヨルダン側から国境をまたいだので30cmほど密入国したのですが、すぐ兵士が銃を構えながら飛んできました。「冗談、冗談」と大声で弁解しましたが、彼らは随分興奮していました。あとで気がついたのですが、ヨルダンは英語表記では「Jordan」と書きます。あのヨルダン兵が英語に堪能だったら、どう解釈したでしょうね。ちょっとヤバかったかも知れません。ところでトルコという国はTurkey(七面鳥)ですね。フランス語ではドイツはAremaniaですが、アルメニアという国もあるし。ややこしいです。

学生Q.地域アイデンテイティがしっかり確立されている地域はすばらしい景観を持っているとも思えます。逆に景観に統一性を感じない地域も結構あります。そういった地域では、なぜ景観がばらばらなんでしょうか? 景観計画がおろそかであるということですか?
コクジーA.残念ながら、日本では「景観計画」を策定する義務はどこの市町村にもありませんでした。わずかに住民合意の上に「地区計画」で様々な取り組みをする所はありましたが。あまり決め付けるのは良くありませんが、日本人は結構個人主義で公共の利益ということをあまり考えないのではないでしょうか。例えば庭にしても日本の家は塀を巡らせて自分の家のウチ側に花や樹木をそろえて飾ります。道行く人に見せる、という感覚はあまりありません。欧米では結構外を歩く人を意識して庭を飾るのではないでしょうか? アイデンテイティが希薄な所が多い、ということもあるでしょうが「公と私」という分け方をすると「私」の強い国民性みたいなものも影響しているようです。

学生Q.集中率の話の時、先生は集中率が高い日は5月5日とおっしゃっていましたが、それは例えば、ではなく、本当に5月5日なのですか?もし5月5日だとしたら、家族づれが多いということですよね。その場合、集中率を下げるのは難しいと思います。
コクジーA.5月5日は「例えば・・」です。この日は「最大日集中率」となる日であることが多いです。違う場合ももちろんありますが、これは観光やレクリエーションのタイプによって異なります。「紅葉狩り観光」といった観光に限定すると11月3日になるかも知れません。神社詣では12月31日とか1月1日となるでしょう。大きな町の動物園、植物園など、さらには美術館なとばあまり集中率は高くなく、違うパターンとなるでしょうし、最大の日集中率も2%とかいった低い値になります。これはある程度来訪客数が平均していて、特別な日だけにドドーンとくることはない、ということです。ところで、5月5日が最大日であるということは家族づれが多く、その集中率を下げるのは難しい、という指摘は good! です。学童生徒の休みにどうしても需要が誘導されるからで、これはなかなか克服できない課題です。ドイツやフランスでは、州ごとに夏休み冬休みの期間を違うパターンにしています。その結果全体としては「夏休み中の学生のいる期間」が3か月にもなり、観光需要もかなり平準化しています。日本の文部科学省にはそんな発想はありません。

学生Q.先日、京都の河原町に行きました。そして清水寺に行き、紅葉を見ました。清水寺に行くまでにたくさん土産物店が並んでいましたが、一軒だけアイドル等の色々なグッズを販売している店がありました。その店は底の雰囲気や周りの店と調和していませんでした。そのような店は周りの店(店の組合)等から何か言われたりしているのでしょうか?
コクジーA.貴方も旅行中に「観光政策論」の実践をしてきましたね。そのケースが本当の所はどうなのか分かりませんが、たいていの場合、そうしたお店は地元の人の店ではなく、組合にも加入しない、申し合わせにも参加しない、といったタイプだと想像します。多くの観光地にそうした店は見受けられます。一方では、観光客の「質」がそうした店を支えているともいえます。「国民は自分と同じレベルの政治家しか持てない」という格言がありますが、「観光地もそこを訪れる観光客の水準に合致する」といえるかも知れません。

学生Q.観光業に勤める人たちは、消費者がどんどん知識をつけてきているので、それに対応するために、日々努力して勉強し続けなくてはならないので大変だな、と感じました。
コクジーA.他の産業も同様だと思いますが、特に観光の分野では提供する商品やサービスの多様性が顕著です。観光商品やサービスアイテムはそれこそ観光地の数だけあるわけですから。観光地やホテル側も自分たちの商品の特性をいかに販売者やメーカー(旅行代理店)を通じて、消費者に正確に伝えてもらうかが、重要な課題となっています。たとえばオーストラリア政府観光局は世界中の旅行代理店の店頭スタッフ(希望者)に対し、オーストラリアの観光情報を定期的に提供した上でテストを実施し、合格者はオーストラリア旅行を報償として与えるような試みをしています。消費者に直接接する彼女たちスタッフをオーストラリアの専門家に育てよう、という取り組みなのです。昔、ある観光地が都会の寿司店の板前を無料招待したことがありました。仕事に戻り、寿司を握りながら、「この前・・・に行ったんだけど、良かったよ・・」と客に話しかけてもらう、という思惑だったようです。

学生Q.テレビで言っていたのですが、三位一体の改革とは国からの補助金をもらう時に指示を受けないということですか? 地域の個性を出すことは、その地域の歴史的文化を取り入れたものだけじゃなく、新しい近未来的なデザインでも個性になりますか?
コクジーA.三位一体の改革とは、①補助金・負担金の削減、②地方への税源委譲、③地方交付税の改革・歳出削減、の3点で構成されています。①では中央の各省庁(国土交通省、文部科学省、農水省、厚生労働省・・・など)は自分たちの影響力が低下するため、抵抗します。②は①の代わりでのようなもので、中央政府からのひも付き(条件)の金銭的支援(補助金・負担金)を少なくするのと引き替えに、地方で主体的に税を徴収する部分を拡大しよう、というものです。従来、国税であったものを地方税にする、ということなのです。これによって、自治体ごとに「歳出の個性化」が図れます。教育に比重を置きたければ、その部分の歳出を多くすれば良い訳で、それは「自分の財布が豊か」になって初めてできることなのです。③は赤字になりそうな自治体財政に対して、国が補填するものなのですが、大前提として赤字自治体は歳出カットなどの対策を講じなければなりません。後段の質問ですが、私はありうると思います。その地域に根付くまでは時間がかかると思いますが、どんな古いものであれ、最初は皆新しかったのですから。ただ、群としてのまとまりは必要でしょうね。建物それぞれが、デザインも素材も機能もまるでかけ離れていたら、混乱してしまいます。コンセプトは多くの住民や建設者の合意によって初めて形成されていくものだ、と思います。

学生Q.「まち」の個性化にとても興味が持てた。個性化とは「まち」だけでなく、「ヒト」や「国」においても大切なポイントであると感じた。
コクジーA.鋭い指摘ですね。何故個性化するのか、というと、これは情報なんだと思いますよ。北朝鮮の美女応援団。確かに綺麗な人ばかりですが、あれだけ同じ表情、同じ仕草だと当然個性は感じられないし、彼女らが世界をもっと知れば、あんな行動は不可能です。でも日本の若い女性も化粧品会社や芸能人に影響を受けて、皆同じ方向に向いてしまわないよう、お願いします。少し八つ当たり気味ですが。

学生Q.私は今旅行業界に少し関心があります。最後に先生がおっしゃったように個人旅行や知識をたくさん持った旅行者が増えつつある中に必要とされるものを学べたらと思います。
コクジーA.旅行業に従事する人が消費者以上の知識を持つことも大事ですが、人はどんなものに、どんな所に、何に、感動するのか、それを知らなければなりません。それには貴方自身の想像力や感性を磨くということが大事で、これは授業の聴講で得られるものではありません。自分自身で多くの旅行をすることが必要です。感性というのはお粗末なものばかり見ているとお粗末な目や心にしかならないのだ、と思います。世の中は百円ショップの隆盛に見られるようにデフレ社会ですが、感受性豊かな若い人たちはそんなものに染まってはいけません。ケチるのは年寄りになってからでもできます。若いうちにアンテナを磨いてください。百円のものに満足してしまう心なんて寂しいではないですか。

学生Q.観光によって、すべての観光地の地域活性化につながるといえるのですか?
コクジーA.そうとは限りません。例えば、観光客がたくさん来るといっても、外部の資本がホテルやショッピングセンターを作り、土産品だって東京や大阪から大量仕入れであったり、従業員も地元採用が少なかったり、ということですと、あまり地域の活性化には繋がりません。大事なことは「地域が自立していること」、「地域の主導性が確保されていること」などだと思います。

学生Q.「その国に自分の国の人たちが旅行していたら、戦争なんておこらないだろう」という先生の話にすごく共感して感動しました。私もそういう世界にしたいです。
コクジーA.観光は平和のパスポート、というのが世界の旅行業者の合い言葉になっています。以前エジプトでスエズ運河のほとりまで行った時、記念にと思ってカメラを向けると警備兵が血相を変えて飛んできて、ホールドアップです。何で? と聞いたのですが、当時はイスラエルと一触即発の時で戦争になると真っ先に運河がやられる、というのは常識だったそうです。写真を取るなどもってのほかだったんでしょう。トルコでは悪戯心で兵隊に写真をとってやる、というとにこにこ喜んでポーズを取るのですが、どうしても銃口がこちらを向くので難儀しました。銃というのは本当にドキドキします。

学生Q.ホスピタリティとは、外国の場合でも重要なんですか?
コクジーA.当然です。これは共通しています。でも私は政策でどうこうできるものではないような気がします。個人個人の資質の問題だし、日本人はそういうベースを持っていると思います。宗教のことをとやかく言うのは主観が入っていて、良くないのですが、仏教国というのはホスピタリティの素養があるのではないか、と思います。タイのバンコクのオリエンタルホテルは「従業員の微笑み」という要素でいつも世界のベストホテル(フォーブス社のランキング)に選ばれています。

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