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らーめん・つけめん・僕○○○○

先週の金曜日。 
衝動のゾンビと化した俺は、“刺激”という赤い獲物を求めて、神奈川県第2の都市に降り立った。 
通い慣れた乗り換えの駅。いつもは出ない改札を出る。 
 
JR川崎駅のターミナルは、仕事終わりの人でごった返していた。 
人が行き来する間を縫って歩き、エスカレーターで1階まで下る。 
駅の外に出ると、日は沈みかかり夜のとばりがビル群を飲み込もうとしていた。 
ネオンがきらめき、鮮やかさと妖しさが人の欲望を映し出しているようだ。 

交差点を渡る。 
言葉にならない言葉を叫ぶ浮浪者、キャッチ、目のギラついた外国人がたむろするアーケード街を抜け、いかがわしい店々を通り過ぎると、街は少し落ち着きを取り戻す。 
 
雑居ビル群の一角にその店はあった。 

蒙古タンメン中本―― 
知る人ぞ知る「辛さがクセになる」ラーメンの超人気店だ。 
Uber Eatsの配達人が店の前で待機している。
 
ラッキーなのか、コロナの影響か、待ち客はソーシャルディスタンスの距離感で2~3人立っているだけだった。 
カウンターの客と客の間には透明な間仕切りが置かれていて、さらに密を回避するように分散して座らされている。 
みな、黙々と、モグモグと、どんぶりに顔をうずめていた。 
マスク姿の店員たちが快活な声を出し、てきぱきと仕事をこなす。 
 
食券を買う前に、トリガータイプの機器を手首に当てられ、体温を計測された。 
飲食の店舗でここまでやられるのは、はじめてだ。 
 
「冷やし蒙古タンメンでございますね」 
 
席に座り、待つこと5分。 
スープと麺が、別盛りで出てきた。 

蒙古タンメンを食べたことのない人向けに少し解説しよう。 
通常の蒙古タンメンは、どんぶりひとつで提供されるラーメンだ。 
母体は、味噌タンメン。 
白菜や豚肉やきくらげといったお馴染みの食材を、辛くない味噌ベースのスープでクタクタになるまで煮込んである。 
その上に、一味唐辛子のたっぷり入った熱々の麻婆あんをかけたものが、蒙古タンメンとなるのだ。
辛さは、10段階中5。 

(写真は五目蒙古タンメン)

冷やしになると、水で締めたつけ麺で提供されるが、 辛さも8辛にグレードアップされる。

味噌スープにひたした麺を口に投入。 
冷やしと名乗るわりにはあたたかいので少し面くらったが、ちゃんと最後まで麺食らってやりました(なんつって)。
8辛は、じわりじわりと体の中から辛さが湧き出てきて鼻水が止まらなくなる、結構な辛さ。
スープは、野菜や肉など食材の旨味が母の愛のように溶け出し、最後まで飽きの来ない深いあじわいに仕上がっている。 

追加で、エビの濃厚な旨味が凝縮されたABジャンと白ごはんを別に頼もうと思ったが、今回は止めた。
味のイリュージョンを楽しみたいなら、頼んでみるといい。 

「ふぅ」


ブルーのYシャツに赤い点々を残し、満足感とともに俺は店をあとにした。 
くちびるが腫れた今夜の俺は、少しセクシーだったに違いない。
アンジェリーナ・ジョリーのように──

          

(note36日目)
(文字数1200)

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