シン•幸福論⑦

○第六章 「感謝」で幸福感を大爆発させる

「○第一章 脳内物質への理解を深める」の【エンドルフィン】の項で、「『感謝』については、単にエンドルフィン的幸福感に話が収まらないので、別に章を設けて説明しよう」と述べた。ここで、「感謝」についてその理論、特に絶大な効果を誇る感謝メソッドについて、丸々1つの章を割いて解説したい。


【感謝がなぜ幸福感を大爆発させるのか】

感謝が幸福感を最大限に高める究極のメソッドと言われれば、一見スピリチュアルな気もする。しかしながら、その科学を理解すれば、このシステムが実に理にかなっていることを痛感するだろう。


感謝で分泌される脳内物質は幸福感をもたらす4つ全てである。しかも、その4つとも異常なほどの質・量で大量分泌されるという。そして、特に中心となる脳内物質こそ、エンドルフィンである。しかし、「なぜ感謝が、『生命の危機を乗り越えるため』のエンドルフィン分泌につながるの?」と思うかもしれない。この疑問に対する回答は、旧石器時代のマインドをもってみれば導き出せる。


つまり、ヒトの歴史において感謝とは、「生命の危機を救ってくれた存在に対する感情」であったということだ。「食べ物を分け与える」「危険を知らせる」「手助けする」という行動は、旧石器時代では「生命の危機を乗り越える」ことに直結していた。したがって、感謝によって心身がリラックスし、パフォーマンスも大きく向上し、恍惚感や多幸感がもたらされるようにシステム化されたのだ。「第三章 オキシトシン的幸福感【脳科学・心理学・行動経済学・生物学などに学ぶ、心の動かし方】」で、「返報性」について述べたが、感謝は返報性にも大きく関係している。ヒトという生命体が発展していくために、感謝は絶対的な重要要素であったのだ。


さらに、感謝の素晴らしいところについて述べておきたい。「感謝で分泌される脳内物質は幸福感をもたらす4つ全てである。しかも、その4つとも異常なほどの質・量で大量分泌される」と先に述べたが、それはつまり、「感謝によって、4つの脳内物質の幸福感を、超相乗的に得ることができる」ということだ。例えば、感謝を「朝陽を浴びて気持ち良く1日を始められること」「健康な食事をできること」「自ら動いて移動できること」に向ければ、それはセロトニンとミックスされた幸福感になる。「他者とのつながり」への感謝をもてば、それはオキシトシンとミックスされた幸福感を生む。適切なドーパミンの幸福感は、そもそもセロトニンやオキシトシンの幸福感と結びつきやすい。加えて言えば、感謝に伴う笑顔や涙にも、大量のセロトニンとエンドルフィンの分泌作用がある。


このように感謝は、幸福感をもたらす他の脳内物質との偉大な超相乗的幸福感をもたらす。しかも1つの感謝は、後から何度でも噛みしめられる。「過去は美化されやすい」という性質によって、時間が経つほど感謝の効果は増しさえする。感謝は、これまで述べてきた脳内物質の素晴らしい要素をミックスし、その効果をどこまでも大爆発させる。つまり、「幸福感を最大限に高める究極のメソッド」そのものなのだ。


最後に、感謝によってもたらされる驚くべき様々な効果と、感謝に関するいくつかの名言を紹介し、この項を閉じよう。


■感謝に関する研究はエビデンスが多く、メタアナリシスの最高峰である。

■感謝は、素晴らしい人間関係構築に著しく寄与する。また、免疫力を大きく向上させ、健康増進と長寿に著しく寄与する。

■感謝は、副交感神経を活発にし、全身のリラクゼーション効果をもたらし、ストレス緩和をもたらす。

■感謝は、睡眠の質を向上させて最高の熟睡をもたらす。


■生涯で捧げた祈りが「ありがとう」の1回だったとしても、それで120点である。

■喜びがあるから感謝するのではなく、感謝するから喜びがある。

■感謝は最高の美徳であるだけでなく、他のありとあらゆる全ての美徳を生み出す創造主でもある。



【自然への感謝(バイオフィリア)】

正直、この項については、他の項より熱を感じさせるかもしれない。ヒトは元来、「バイオフィリア」という、本能的に自然とのふれ合いを求めるシステムを有しており、自然とふれ合う中で能力が引き出されるようになっている。自然の中でパフォーマンスが最適化するという事実は、「ヒトとして」視点で考えると至極当然のことだろう。


ヒトと自然に関するデータとして、次のような驚くべきものが存在する。


■オフィスにバイオフィリアの概念を採用しただけで、幸福度が15%、生産性が6%、創造性が15%向上する。

■窓から緑の見える教室では、学業成績が13%アップする。

■森林浴で記憶力が20%アップし、ストレスが軽減され、ナチュラルキラー細胞の活動が50%増加して免疫力がアップする。

■1ヶ月に5時間以上自然の中で過ごすだけで、ストレスが大幅に軽減されるのに加え、脳が活性化して記憶力・集中力・創造力が向上し、鬱病予防がもたらされる。

■1ヶ月に12時間以上自然の中で過ごす人は、ほぼ鬱病にならない。

■緑の見える病室の患者ほど、手術後の経過が良好で退院が早い。

■自然環境の設定は、特に生産性に関する事項(決断力・攻略力・危機対応力・情報活用力など)の向上において絶大な効果を発揮し、その向上率は、最低でも2倍、条件によっては4倍である。

■自然にふれる子どもは、前頭前野が大きく知能が高い。反対に電子機器に囲まれると、子どもの知能は低下する。

■3日間の「自然修正旅行」で、仕事において重要な創造性が50%アップする。


ここで、いくら強調しても強調し足りない超重大な事実を伝えよう。誰しも、自然の雄大さを前にして、自分の小ささを痛感することがあるだろう。また、自分が何か大きなものの一部だと感じることもあるかもしれない。このような体験は「Awe体験」と呼ばれているが、実は、「Awe体験」の際に脳は数十倍、場合によって数百倍以上も活性化するという。付随して、「Awe体験」で私たちは、健康増進(過剰な炎症性サイトカインを抑制し、神経を強化し、著しい抵抗力を与える。)、ストレス軽減(1回の体験で、PTSDに苦しむ人々のストレスレベルが30%軽減され、その効果は1週間続く。)などの驚異的効果も享受できる。感謝・感動・畏怖という心情に伴う、4つの脳内物質の超大爆発的相乗効果がその理由であるのは言うまでもない。


数多くの研究で、バイオフィリアが、あらゆる運動・瞑想よりも大きな効果を生むと結論づけられている。だからこそ、運動や瞑想を、自然の中で実践してしまえば良い。そうすれば、運動や瞑想の効果は何千倍にもなる可能性がある。決して大袈裟ではない。それほどに大自然は、それを包む大宇宙は、途方もなく偉大なのだ。


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