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心の産廃

 あるはずだと思っていたものがない。あると信じて止まなかったものが存在しない。そんなとき、一体何処の誰にこの灰色のゴミクズを投げつければいいのか。この心の産業廃棄物を処理してくれる施設はどこにあるのか。どうしようもない心のガラクタを引きずって今日もエージェントは夜を往く。

 何かに期待をするから、それが損なわれた時にそれと同じ大きさの、またはそれより巨大な、怒りや失望を産むことになるのだ。より高みを目指して翔んだイカロスは、太陽に翼を焼かれる。神話になるにはあまりにも私たちは若い。

 いっそのこと何もかも無くなればいい夜だ。イヤホンの音を最大にしてみても、相変わらず自転車の速度は朝と変わらないし、汗だってしっかりかく。風呂に入った意味がまるでない。来た道をまた戻る。汗のかき損、風呂の入り損、生き損。

 ガラガラの夜行電車で、精一杯の悪態をついてみる。朝の礼儀正しい満員電車なんかじゃ決してできない。背もたれに深く、いや深いどころかもはや一体化したように、ベランダに横たえられた布団のように。これをせめてもの社会への反抗と捉えようか。イヤホンから音楽が車内アナウンスが聴こえないほどに鳴っている。心の産業廃棄物を投棄するどうしようもなくキラキラとした場所を、誰しもが求めている。

 

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