人生の大切な場面には、
彼らと出会ったのは小学6年生の冬だった。
音楽番組をなんとなく見ていた時だった。適当に見ていると知らないアーティストが登場し、スタンバイを始めた。画面の上部に曲名と一緒に「衝撃のデビュー曲」と表示される。
衝撃、ねぇ。
まあ説明なんて大体そんなもんか。衝撃っていってもそんなの人によるのに。そんな感じでわりと冷めた目で画面を見ていた。なんて嫌な子どもだろう。
けれどそれも一瞬だった。
開始一秒でわたしの頭上に雷が落ちた。本当に落ちた訳では無い。雷に打たれたような衝撃が全身を走ったのだ。
なんだ、これ。
歌声、歌詞、曲調、全てに意識が持っていかれた。なにもかもが斬新だった。思考が止まり呆然とする中でとんでもない曲を聞いてしまったことだけわかった。
これが、ポルノグラフィティとの出会いだ。
感じたことのない衝撃に、彼らは何者なんだと気になったが、当時のわたしはスマホもパソコンも持っておらず(6年前では何ら珍しいことではなかった)興味を持っても調べるためのツールがなかったため、結局何もわからないまま月日が流れ、そのうちこの時のことも記憶の端にやられてしまい一年が経過していた。わたしは小学校を卒業し、中学生になっていた。
夏が近づいてきた頃、わたしは読書感想文に良さそうな本を探して本棚の間をウロウロしていた。普段は課題図書から選んで書くのだけど、この年のはどれもピンと来なかった。図書室掃除なのをいいことに、掃除がてらこっそり本探しをしていた。
そして1冊の本が目にとまった。タイトルは『明日に続くリズム』。
帯に書かれたこの文章に、自分と重なるところがあったのだと思う。あらすじもろくに見ないままこの本にしようと決めた。後日書店で購入しワクワクしながらページをめくった
物語の舞台は瀬戸内海にある島々のひとつである因島。中学3年生の千波は高校受験を前に夢と現実の狭間で揺れ、葛藤し、悩み、思いをめぐらせる。家族のこと、友達のこと、自分のやりたいこと、ふるさとのこと。大好きなポルノグラフィティの歌を胸に刻んで、前に前にと進んでいく。そんな少女を描いた小説だ。
なんとなくで選んだ本で、まさかの再会だった。ポルノグラフィティ?なんか聞いたことあるな…となかなか繋がらなかったが、読み進めるうちに、もしかしてあの時の?と少しずつ結びついていった。
最後にはポルノグラフィティが凱旋ライブを開くシーンがある。これは実際に2005年に行われたことらしく驚いた。千波たちは物語の中の登場人物だけれど、実際あの場にいた少年少女はきっとこんな気持ちだったのだろう、こんな雰囲気だったのだろうと言葉だけで胸が熱くなった。
凱旋ライブに感銘を受けた同郷の作家さんが書いた物語によって、全然年代の違う、因島とは縁もゆかりも無い中学生が10年以上の時間を越えて当時の感動と巡り会うという、この一連の繋がりがすごいことだと思った。自分がどれほど素敵な出会いをしたのか、誰に問うまでもなく肌で感じていた。
そのタイミングで音楽番組に彼らが出演した。披露したのはアゲハ蝶。そして12月のFNS歌謡祭でも彼らは登場し、サウダージとLiARを披露した。
これは……運命じゃないだろうか。そんな勘違いを起こしてしまうほどに奇跡は連続した。
これらがきっかけとなり、わたしはポルノグラフィティの魅力にハマっていった。クリスマスプレゼントにサンタにお願いして15周年の時に販売されたアルバムをもらった。わたしが唯一持っているポルノのCDだ。ファンだと言い切るには少し後ろめたい。それでも好きという気持ちはずっと持ち続けているため、いつか堂々と名乗れるようになりたい。
年が明け2017年、わたしにとって人生最悪の一年の幕開けとなった。全てにおいて救いがなかった。始業式早々にクラスの子に笑われ、この1年は自分一人で耐えるしかないのだと悟った。起きて最初に思うのは「学校に爆弾でも落ちないかな」本当にこれ一択。自分も含めてみんな死ねばいいと思っていた。不登校になりたいとも毎日考えていたが、1回休んでしまうと二度と人生の修正がきかなくなりそうで怖かった。別のクラスで友人と平和に過ごす夢も何度も見たが、夢は夢でしかなく朝の絶望を助長するだけだった。終わりの見えない絶望に呑まれそうになっていた。心は常にギリギリだった。
深く暗い谷底で唯一光を与えてくれたのが、ポルノグラフィティだった。
スマホを持っていなかったわたしにとって、ウォークマンは大事な相棒だった。学校から帰ったあと、塾へと向かう道、勉強の合間、本当にお世話になった。ほとんど使わなくなった今も手元に残してある。
ウォークマンとヘッドホンと小説があればきっとどうにかなると、ピアノ線のような希望に縋っていた。その甲斐あってなのか、一日も休むことなく学校に通い切ることができた。もちろん心はズタズタなので無事に、とは言えないけれど彼らがいてくれたのは本当に大きかった。
中学を卒業するまではポルノ漬けだったが、高校に入ってからは少し熱が収まった。特に1年生の頃は悩みが少なかったからだと思う。冬はガンガン聞いてたけど。
1年生の冬は一言で言うなら検定ラッシュだった。3週連続で検定があったり、学年末テスト直前に大きな検定が控えていたりと本当に大変だった。さすがに1年生レベルの検定(日商簿記3級はかなり苦戦したけど)に受からないのはまずいと、毎日図書館に通い勉強に勤しんでいた。高校生になり怠けるようになってしまったわたしが、めずらしく真面目に勉強していた時期だ。
テキストを広げ、電卓を叩きながら、イヤホンをつけてポルノのライブ動画を再生するのがこの時の日課だった。中学時代好きだった曲を流しながら取り組むと不思議と集中できた。特に励まされたのは「ギフト」。日商簿記検定の試験中に自然に脳内再生され、合格まで導いてくれた曲だ。
その約一年後、高2の冬の検定ラッシュの時には「ハネウマライダー」を聴いていた。
もちろん他のアーティストの曲を聴くこともたくさんあったし作業用動画を流していたこともあった。だけどポルノは別格だった。
人生の大切な場面には、いつだってポルノグラフィティがいた。
救い、希望、勇気。越えられない壁にぶつかった時、心が折れた時、不安に苛まれた時に、かけがえのないものをたくさんもらった。だから17年間どうにか生きてこられた。本当に感謝してもしきれない。
わたしの10代はポルノグラフィティでできているといっても過言ではないかもしれない。King Gnuの井口悟も言っていた。「何度生まれ変わってもポルノグラフィティを避けて通れない」と。きっとこれからの人生もポルノとともに形成されていくだろう。
就職試験を目前に控えているわたしは今、彼らの2年ぶりの新曲である「テーマソング」に支えられている。試験に対しても働くことに対しても不安しかないため毎日本当に落ち着かない。だからこそ、まっすぐで超ドストレートな歌詞が、エールを送りたいという気持ちが、心に直接響く。この胸は確かに震えた。
少しオーバーなくらいでいい。自信をもって挑んでいきたい。
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