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本のレビュー④ エマニュエル・トッドの思考地図

最近やっと統計の重要さに気づいた。コンサルティングをするにも企業分析をするにも、新商品を開発するにも社会学的な分析をするにも数字を見て判断することは必要不可欠である。なぜかというと人の感覚だけではどうしても足りない部分が多いからである。人の感覚が直感が今の時代重要になっていると言われてもやはり、定量的な分析は重要なのである。その基礎的な情報を収集した上で自分の感覚や直感が役に立ってくるものだと私は思う。このような考えを巡らせているときに出会ったのが、今回紹介する「エマニュエル・トッドの思考地図」である。

題目:エマニュエル・トッドの思考地図

著者:エマニュエル・トッド

訳:大野舞

出版日:2020/12/25


本の概要

ソ連崩壊、イギリスのEU離脱を見事に当てた歴史人口学者であるエマニュエル・トッドの思考法の過程が記された完全日本語オリジナル版の本である。彼の思考のプロセスはどのようなものになっているのか。

評価:★★★★☆

感想

この本で最も著者が伝えたかった部分は何かと考えた時、それは「常に外在性を作っておくこと」「歴史をしっかりと見ること」「予測はデータをインプットし、統計分析・比較した先にあるということ」この3つではないかと思う。

彼は何よりもデータや史実に目を向けることを重要視している。ソ連崩壊を言い当てたのも当時の乳児死亡率に焦点を当て、そのパーセンテージが他国より高かったからだと述べている。このような予測を立てる上で様々な史実を調べることは必要不可欠である。この「調べる」と言う行為を著者は「思考する」と述べていたことには非常に衝撃を受けた。

では、思考するという行為の第一フェーズは何であるのか。彼は読書であると明かしている。しかも、ただの読書ではなく「カニ歩きの読書」である。もともとある知識の中から自分が研究したいと思う分野に関係がありそうな本を探してみる、その研究に関するデータを集める、少し違う視点から研究に関係しそうな本を読んでみる、メインテーマの本と違う視点から見た本の隙間を埋めるような読書をする、着地点を見つける。説明だけを見てもあまりイメージが湧かないと思うため、ここの部分を詳しく知りたい方は購入してみることを推奨する。

次に「思考する」ことの本質について説明しようと思う。著者は「私にとって思考することの本質とは、とある現象と現象の間にある偶然の一致や関係性を見つけ出すことーつまり「発見」をすること」と述べている。ではなぜ「発見」する、すなわち「アイデア」を見出すことが難しいのか。著者はアイデアを妨げるものがあると述べていた。

①自分の中で無意識でランダムな考え方がない。それはデータ集積が不十分であったりそもそもデータ把握能力が欠けている、インプットしたデータが脳に定着されるまで深く定着していない、ある現象とある現象を結びつけるような努力をしていないという理由が挙げられる。

②社会がそのアイデアを持たせないようにしている。このような状況から生み出されるのがグループシンクであると著者は述べている。

アイデアを妨げるものが明らかになった今、私たちはアイデアを容易に生み出すことができるのか。そこにはまだいくつかの条件が満たされていない。私たちが次に考えなければいけないのは「外」に目を向ける、すなわち外在性を作ることである。私たち全ての人間は社会に属しています。そのような状況下で私たちはどのように外在性を作ればいいのか。「思想ではなく事実から始めよ。」なんらかの思想やイデオロギーから始めてしまうとそこにはそれに合致した事実ばかりが浮かび上がってしまう。自分の一部を外に出すことで始めて、思想からではなく事実から始めることができる。ではアウトサイダーであるためにはどのようなことをすべきなのか。著者はいくつかの方法を提示してくれている。

①思考の面では自分の国に留まらず、外へ行ってしまいなさい。ある一つの社会をみるためには他の社会と比較してみるべきである。

②SFを読み、想像の世界へ行きなさい。たまにはまともではない考えをしてみたり、とっぴな関連性を見出してみたりするにはSFは最適である。

③すでに死んだ人の作品をより多く読みなさい。古典を読むと現実の世界から一歩退いて世界を俯瞰することができるという。

④恋愛面で危機にあるときほど研究に邁進しなさい。アイデアが湧くと言うことは、日常のルーティーンから出ることであると著書には記されている。学校の授業、本で読んだこと(日常のルーティーン)など、私たちの頭の中にあると言うのは他の人がすでに考えたことである。

最後に著者の芸術的な未来予測がどのように生まれたかの自分なりの解釈を記して終わろうと思う。彼は家族、宗教、教育レベル、それから経済変数や人口学の基礎である死亡率や乳児死亡率を中長期的に、具体的に比較・分析し、相関性が高かった研究を自分なりに噛み砕き、結論づけることによって未来予測を可能にしている。コロナウイルスで変わってしまった世界を予測する際にも彼は、過去にあった似た事例、「エイズ」と比較をしている。そこから全世代的にかかるものではないと気づいた。また家族構成を参考にし、産業を残した国々は比較的コロナウイルスを塞げていない反面、グローバル化によって産業を手放したヨーロッパの一部の国々では塞げていない。つまりグローバル化はただ世界をいい方向へもって行くためだけに進められている変化ではなく、そこには卑劣な金融の思惑や先進国の後退を招いている要素でもあると明かしている。これはエマニュエル・トッドの事実に基づいた芸術的な比較→未来予測である。

印象に残った部分

・思考するために哲学を学ぶ必要はない、経済を考えるために経済学者はいらないというのと同様。

・知らないことを知った時の感動こそが思考するということである。

・歴史こそが人間を定義する。

・歴史の根底には覆すことのできない真理がある。

・自分の頭の中で物事がしっかりと明白になってからでないと書き始めない。

・(カトリックや共産主義などによる)道徳的枠組みの崩壊は思考する自由を変えるようなことはなく、個人というのがいかに小さく孤独であるのかを明かした。

・人類は最悪の事態を予測しないようにできている。

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