ショートショート(38話目) Fourth stage

心理学者、アブラハム・マズローは人間の欲求には5つの階層があると主張した。

第1段階は「生理的欲求」。
食欲、排泄欲、睡眠欲など。

第2段階は「安全欲求」。
心身ともに健康で安全な場所で暮らしたいという欲求。

第3段階は「社会的欲求」。
集団への帰属や愛情を求める欲求。

第4段階は「承認欲求」
名声や地位を求める出世欲などがこれにあたる。

第5段階は「自己実現欲求」
自分らしく生きたい。自分にしかできないことをしたいという欲求。


また、心理学者アルフレッド・アドラーは人が幸せに生きるためには承認欲求は不要だと説いた。

アドラーの考え方は【嫌われる勇気】として出版化されていて、国内で200万部を超えるベストセラーとなっている。

それにも関わらず、ほとんどの人は承認されることを求めて日々を生きている。

ある統計調査によると、承認欲求を解消できていない人の割合は97%らしい。つまり、他社から承認を得られている人の割合はわずか3%しかいないのだ。



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いま、私の会社ではプレゼン大会が開かれている。

このプレゼン大会は、直近の1年間で自分が社内で何をやったのかを1人3分でプレするというもので、100名を超える社員がこぞって自分の成果を発表している。優勝者には賞金として10万円の臨時ボーナスが渡されることになっている。

他人の自慢話ほどつまらないものはない。
みな、自分の承認欲求を満たすために必死だ。

私のプレゼンの番がやってきた。
プレゼン資料などを使う予定はない。
私は話をはじめた。

「皆さん。今年も1年間、本当にありがとうございました。私はここで自分の成果を発表するつもりはありません。代わりに、お世話になった人への感謝の言葉を贈りたいと思っています。

まずは事務員の田中さん。いつも、元気な挨拶をしてくれて本当にありがとうございます。

そして、営業メンバーの勝山さん。いつも周りのメンバーを気遣ってくれてありがとうございます。

エンジニアの根本さん。常にサービスを良くしていこうという姿勢にみんな励まされています。本当にありがとうございます。

営業部長の青山さん。あなたの厳しいマネジメントがあるからこそ、会社は成り立っています。本当にありがとうございます」

私は3分にわたり、謝辞を述べた。
嘘偽りのない率直な気持ちだった。
プレゼンが終わると、会場からはいままでで一番大きな拍手が起きていた。



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私はプレゼン大会で優勝こそしなかったものの、会場にいる人たちから多くの賛辞を受けることができた。

97%の人たちが解消できていない承認欲求の満たし方を私は知っている。

他者から承認される唯一の方法は、他者を承認することだ。


とかく、人は他者からの承認を求めるために自分がどれだけすごいのかを語りたがるが、そんなことで承認欲求を満たすことはできない。

なぜならば、自分よりもすごい人間などいくらでもいるからだ。


プレゼン大会が終わって帰宅しようとしたとき、背後から声をかけられた。

そこには私がプレゼン大会で私が賛辞した人たちがいた。

「よかったら、これから飲みにいきませんか?」


他者から承認される方法は、意外と簡単なのだ。









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