ショートショート(38話目)0→1 

宇宙には無数の星が存在している。

その数は地球上の砂粒すべての数とほぼ同じと言われているが、真偽のほどは分からない。

宇宙はいつはじまったのか。
そして、いつ終わるのかを誰も知らない。

宇宙のはじまりについて最も有力な説はビッグバンだ。
ただ、この説には大きな謎が一つある。
それは、ビッグバンの起源となった最初の熱量がどこからきたのかという疑問だ。

科学的な観点から言えば、0から1が生まれることはない。
すなわち、この世界に『1』が存在していること自体が不可解なのだ。

古代より、多くの人間がこの謎の究明に勤しんできた。
多くの宗教では『1』が存在する理由を「神が作ったから」と定義した。
仮に神が0から1を作り出したのだとしたら、神はそれほど善の存在ではないであろう。なぜなら、この世界はとても残酷だからだ。

そもそも、この世界は実在していないのではないかと考えた哲学者もいる。
デカルトはこの世界で存在を証明できるのは己の思考のみだとして「我思う故に我あり」という言葉を残した。

この世界が仮想現実だと信じる者は多い。
そう考えることで生きやすくなる人はいるだろう。

仮にこの世界が仮想現実だとするならば、いま自分が置かれている状況もそれほど大したことはないのかもしれない。

新卒入社してから25年勤めた会社が昨日、倒産した。
47歳となった私を雇用してくれる会社など、果たしてあるのだろうか。

胸ポケットからLARKを取り出し、ライターで火をつける。
先端が赤くなった煙草をみて、これがビッグバンの原理かもしれないと思った。ビッグバンの最初の熱量は、神の吸い込んだ息によって起きたのかもしれない。

仮に神がいるならば、教えてほしい。
この世界のはじまりになど興味はない。

私の人生がこれからどうなるか。
それだけでいいから、教えてほしい。



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