【人の日本酒をもらう】貸倉庫に眠る、自家常温熟成の日本酒を漁る会
ある日、Twitterにこんな投稿が流れてきました。
飲むために買ったであろうお酒を、飲まずに他人に引き取ってもらうという。そんな不思議なこと、あるのでしょうか。それも大量に。
日本酒好きなひとりとして、また「ノークレームの自家熟成」というパワーワードに惹かれて、挙手しました。
今回は、「よそ様の家の日本酒をもらう」という、今もまだちょっと信じられない、不思議な体験を紹介します。
レンタル倉庫に眠る数百の日本酒と対面
週末の午前11時、指定された都内のレンタル倉庫に到着しました。「おはようございます〜」と明るく出迎えてくれたのが、写真のきくてぃさんで。なんでもこの倉庫は、「日本酒を保管するため」にわざわざ契約しているのだそうです。すごい。
また、現場には私の他にもう1名「受取人」の方がきていました。「日本酒引き渡しの会」は時間をわけて複数回行っており、この時間帯は私を含む2名が参加する模様です。
ちなみにもう1名の方は、神戸から仕事のついでにいらっしゃったそう。自ら日本酒の会を行う、セミプロの方でした。
なぜ日本酒を貯めて、そして手放すのか?
──日本酒を譲渡いただく前に、そもそも大量の日本酒をどのようにして集められたのでしょうか。
きくてぃさん「私は日本酒の中でも熟成系が好みで、ここ何年かは『長期熟成酒研究会』の事務局の活動をしていました。ご存じですか?」
──いえ、はじめて耳にしました。
きくてぃさん「まあ、ただの好事家の集まりですよ。事務局を運営するにあたり、日本酒を集めては倉庫で熟成させ、イベントで提供する、ということをやっていたんです。しかし今回、事務局業務から離れていち参加者になることになり、たくさんの日本酒を保管しておく必要がなくなったんですね」
──……ですが、せっかくお金を出して買ったものを「売る」のではなく「譲る」のはどうしてですか?
きくてぃさん「日本酒は酒販免許がないと売れないんですよ。最近かな?メルカリで大量にお酒を売っていた人が捕まりましたしね。
それに僕の日本酒は、冷蔵庫でなく常温で保存していたので、味がどうなっているかわかりません。それを理解して「ノークレーム」という方に引き取ってもらうことにしたんです」
Twitterで呼びかけた結果、数名が引きとり候補者に。時間や距離などの条件にあった何名かが、実際に倉庫を訪れる権利を得られたのだそう。
私は、「なんとなく、たくさんもらうのは気が引ける…」と、普通のリュック背負ってやってきたのですが、聞くと「今日の午後の部に飲食関係の人がやってきて、余ったものはすべて持っていってくれる」とのこと。
つまり、遠慮は不要。むしろ遠慮は「減らす戦力になれない」ことでもあります。とにかく、気になるものをできるだけ譲渡いただくことにしました。
日本酒の眠る倉庫は、お酒好きの宝箱だった!
自家熟成酒を漁りにかかります!お酒はどれも箱に収まり、お手製のラベルが貼られています。管理がすごくしっかりされています。
きくてぃさんは、倉庫の日本酒が「だいたいいつどこで入手したか覚えている」そう。さらに1本ずつエクセルで在庫管理(!!)されているらしく、「このお酒は何ですか?」と聞くと、すぐに熟成年数などを教えてくれます。
日本酒の敵は日光。きくてぃさんはほぼすべて(箱入りのものは省く)を新聞紙に包んで保管しています。ちなみに写真は「遊穂(ゆうほ)」の熱燗向けタイプ「湯〜ほっ。」です。
きくてぃさんはお酒を、「箱買い」(数本単位で購入)されることが多いそうで、保管庫にも同じ銘柄が数本揃っていたり、その年代違いがあったりと、見るだけで楽しくなります。
入手困難な人気酒「花陽浴(はなあび)」もありました。
いわゆる「熟成に向きそうなどっしりしたお酒」だけでなく、甘くてフルーティーで、「早飲み」されやすいお酒も多く眠っています。「どうなるかわからないですけどね」(きくてぃさん)ということにチャレンジできるのが、自家熟成の楽しみなのですね。
この他、「旅先で見つけておもしろそうだったお酒」や「近所のスーパーでおつとめ品になっていたもの※」、さらに「いただきもの」など、さまざまなルートできくてぃさんの元にやってきた、さまざまな個性のお酒が、選べないほどたくさん並んでいました。
すごい、宝箱ですここは。きくてぃさん解説を聞きながら、ここでいっぱい飲みたいくらいです。
(手放さないものも含めて)日本酒を何本くらい保持されていますか? と聞くと「280くらいですかね〜」ときくてぃさん。すごい!!!と驚いていたところ「全然、この界隈ではもっと上がいますので、数をいうのが恥ずかしいくらいです」だそうです。沼の深さを垣間見ました。
もちかえる日本酒を選ぼう!
ふと横を見ると、もう1名の参加者は次々と日本酒をセレクトして、キャリーに詰めていました。
私も急いで、きくてぃさんにおすすめ(おもしろいもの、特に古いもの)を教えてもらいながらセレクト。記事の後半でそれぞれのお酒を紹介します!
自家熟成酒は、変化そのものを楽しんで
──自家熟成酒の楽しみ方を教えてください。
きくてぃさん「そうですね…、ニマニマしながら味わってください。『こんなふうに味がかわるかな〜』というように、何かを期待して熟成させることが多いのですが、その予想が当たったときが一番楽しいですね」
──自家熟成酒の「飲み方」のアドバイスはありますか?
きくてぃさん「そのままはもちろんですが、熟成したお酒は『他のお酒で割る』こともできます。例えば、すっきりしたお酒に少量熟成酒を加えると、また違ったおいしさが楽しめますよ」
──手塩にかけて育てた日本酒たちが、今日旅立っていきます。最後にメッセージを。
きくてぃさん「『やっと日の目を見るね』ですかね。おいしく飲んでやってください」
我が家にやってきた熟成日本酒を紹介!
当初は「3本くらいリュックにいれて帰ろうかな」と思っていたのですが、お話を聞いてひとつひとつみ始めると止まらなくなり、持てるぎりぎり(ビニール袋おかりしました)を連れて帰りました。我が家の自家熟成組になった新メンバーたちを、ここに紹介します!
上善如水(じょうぜんみずのごとし) ロック 3年もの
きくてぃさんに「おもしろいお酒おしえてください!」といって出てきたのがこちら。すっきりと飲みやすいことで知られる「上善如水」ですが…まるでコーラのような色。実は、3年の熟成で色がついたのだそうです。
もとはこちら。涼やかな印象です。それが
ここまで変化します。「水の如し」というこのお酒、どのような水になっているのか、とても楽しみです。
花陽浴(はなあび)3年もの
こちらは入手困難なレア銘柄「花陽浴」です。蜜のように甘くてとろりとした味わいが特徴です。お酒を熟成させると甘さが増えるイメージがあるのですが…どうなっているのか気になります。
こちらは、花陽浴好きな友人のところに持っていってみようと思います!
鬼ころし しぼりたて生原酒 もうすぐ3年もの
きくてぃさんが「日本一おいしい鬼ころし」というこのお酒。「鬼ころし」という日本酒は実はたくさんあるのですが、その多くはスーパーとかコンビニで目にするパック酒。こちらのお酒は「しぼりたて生原酒(3年前は)」とフレッシュさを打ち出しています。重厚な瓶からも、特別なお酒感が伝わってきます。
こちらは「鬼ころし」大好きなくぼたさんに送ろうと思います。
飛露喜 もうすぐ6年もの
昨今の日本酒の味わいの潮流を決めたともされる、超有名銘柄。その5年熟成、年をあければ6年になります。冷蔵でしっかり管理されることが基本のこのお酒が、常温でどのように育ったかというところに期待が高まります。
奥の松 1988年 34年熟成!!
きくてぃさんが「古いお酒がいいのでしたら…」と奥からひっぱりだしてくれたのがこちら。30年以上のスーパー熟成酒です。
ちなみにおすすめの飲み方は「カステラにかける」とのこと。もったいない気がしますが…かけます。がんがんかけます。
熟成酒飲みたい人、飲みましょう!
きくてぃさん、本当にありがとうございました。
ここからしばらくの間、お酒もちこみOKのような飲み会には、これらのお酒を持参し「自家熟成酒の楽しさ」を布教してまわりたいと思います。きくてぃさんのアドバイス通り、にまにましながら、変化具合を楽しみましょう。
きくてぃさん、本当にありがとうございました。
この子たちのお世話、うちの押し入れでしっかりやります!
もちろん、お酒を飲みます。