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【酒場さん七】とにかく燗酒がうまい、阿佐ヶ谷の秘境的酒場でトリップ

「うまい熱燗」を飲みたい。

そんなとき、候補のひとつに浮かぶのが阿佐ヶ谷の「酒場 さん七」です。ポイントは「繊細で素晴らしい熱燗」ではなく「ただただうまい熱燗」を飲みたい気分だという点です。

熱燗がほしくなる寒い休日、「さん七」さんへお邪魔しました。好きなお店のひとつでありながら、どうも端的に表現できない「さん七」さんの魅力をなんとか形にしたく、レポートにしました。

「秘境」といわれる阿佐ヶ谷の雑居ビルへ

こういう趣を「良い」と思える歳になった

中央線、阿佐ヶ谷。最寄駅は東京メトロの南阿佐ヶ谷。商店街から少しはずれたところに、スナックや飲食店が入る雑居ビルがあります。平成を通り越して昭和感がすごいです。

暗いとやや怖い

2階にあがり、レッドカーペットを奥まで進みます。「スナックかいぶつらんど」「ピーナッツ」などが同フロアのお店たち。

到着。廊下の奥の奥、「たん亭」のひとつ手前と覚えておきましょう

あまりに入りにくく、またひっそりした雰囲気から、さん七は「秘境」といわれることがあります。一見さんがふらり、というのもほとんどなく、この秘境感を味わいにわざわざきた人が足繁く通うお店なのです。

日本酒のラインナップがとにかく渋い

もともとスナックであったであろう店内が、カウンター4席ほどとテーブルのみ。カウンターに立つ店主が料理から配膳まで行います(時間によってスタッフの方がお酒を出してくれることも)。4〜5名お客さんがはいれば、もう「混んでる」感じになるといったサイズです。

日本酒に興味のある人、このメニューをじっくりお楽しみください

「さん七」さんの魅力のひとつが、このお酒たちです。熱燗にあう渋いラインナップ。特に東京の居酒屋さんではあまり見ない関西・中国地方のお酒が並びます。これらがグラスだと450円、1合または熱燗だと750円。非常にお手軽です。

小松人…好きなんです

メニュー以外にも気になる燗酒がたくさん並んでいます。メニューから選んでもよし、店主におまかせするのもよし、ぞんぶんに熱燗を楽しめます。

料理のおすすめは「おまかせ」コース。今回はおつまみ中心の5品ミニコース(2600円)でお願いしました。あまり安い安いいいたくないけど、安いのです。

熱燗は「気取らずにうまい」がいい

ラベルが渋い。

この日ははじめから熱燗でスタートします。「一杯目なので重すぎない熱燗を」とお願いしたところ、福島県は喜多の華酒造場の「北乃花」を選んでくれました。それも「常温熟成貯蔵酒」です。結構攻めたものをいただきました。

「菜の花」、こういうのがいい

「さん七」さんの熱燗は、人が温めるのではなく、中にお湯を入れて保温できる容器にそのままお酒を入れる、といったもの。最初は常温、じわじわと温かくなります。

実は、ここが「さん七」さんの重要なポイントです。
「熱燗がおいしいお店」というと、御燗番といったプロが1℃度単位で丁寧に温度調節をしてくれる「プロの素晴らしい熱燗」を連想します。一方「さん七」さんの「入れただけ熱燗」は、そんな工夫はなし。それでもお酒とつまみの力で「ただただ旨い」と思わせてくれるのが、すごい、いいんです。

「特別で感動的な熱燗」を飲みたければそういう店に行きますが、今求めているのは「うまい熱燗をただただ味わう」こと。同じ熱燗でも全然異なります。

熱燗がみるみる捗るつまみたち

名物のひとつ「馬肉ユッケ」。たまらんです

「さん七」さんのもうひとつの魅力が、お酒がよくすすむ料理たちです。おいしさを伝えたい気持ちは強いのですが、基本的にお店が暗く、また地味なものが多く、ぱっと見ではよさがわかりにくいのです。

トントンとまな板を叩く音がする、と思っていると「イワシのなめろう」がきました。

次の熱燗は「三光天賊」。まろやかな旨みがあり、それだけだとちょっとおとなしい味。しかし先ほどの地味ななめろうと合わせると、熱で脂身が溶けてよく「なじみ」ます。

つまみもお酒も、互いに引き立たせ合う関係ってこういうことなんだ…。すごいです、口のなかが旨味でぐんぐん押し込まれていきます。

つまみもり。ずっとお酒が飲めるやつ

次の熱燗は「好きな人は好き」という個性派「白影泉」。「奥播磨」で知られる奈良・下村酒造店の熟成酒です。すごいです、最初はきれいですが、後半からいろいろな味(旨・苦・香そのほかもろもろ)がごっちゃになって広がります。

自宅用に買うとなかなか減らないけれど、お店でちびちびと飲むのは最高のタイプです。

退廃的な空間が、幸福感を増幅させる

店内のBGMは、(おそらく店主のiphoneから流れる)カーペンターズなどのカントリー。なぜか、熱燗にあうような気がしてきます。

薄暗い店内。熱燗のゆげ。ドアの外は怪しい廊下。「さん七」さんは、ただ時代が古いだけではない、日本だけどすこし違う異世界のような雰囲気があります。外界と断絶したような退廃的な空間で、口の中の「旨い」を楽しむのが楽しいのです。ひとりで黙って過ごしたい。

ハレとケの間にある、普通で特別な店

おでん。地味です。そしてうまいです。
最後は気になっていた「酒与右衛門」をお願いしました

「さん七」さんのポイントを端的にいうと「旨い、安い」です。でもそうじゃない。そんなお店じゃないのです。

マニアックなお酒(熟成は特に貴重)を、肩肘張らない方法でいただけて、地味ゆえにおいしい料理を、退廃的な空間で、こちらもとても気軽に楽しめる。

大衆酒場ともこだわり酒場とも違う、ハレとケの間にあるエアポケットのような位置に立っているのが、“秘境”こと「さん七」さんの魅力だと思います。

この「好きな人は好き」なよさ、どうか伝われ!


「さん七」さん、ごちそうさまでした。またお伺いします。
お店の情報はTwitterで確認できます。

https://twitter.com/peacemaru3737?s=21

もちろん、お酒を飲みます。