見出し画像

古典酒場と定番酒は「いい諦念」をつれてくる。【大黒屋/丸新】

定期的に、古い酒場に行きたくなります。居酒屋というより「酒場」という響きが似合う店に。

夕方から地元の人たちで賑わい、各々の「いつものつまみ」があって、日本酒はクラシックな定番酒があるといい。菊正宗とか大関とか剣菱とか、そのあたりの燻銀の銘柄が、ずっと固定で置かれているようなお店ならなおいいです。

そんな、2軒の酒場を訪れました。
武蔵小金井の大黒屋と、北浦和の丸新を紹介します。

古典酒場①大黒屋 樽酒とくさや

東京の西の方、JR中央線の武蔵小金井駅にある「大黒屋」。昭和30年ごろから営業を続けているそうです。

まずはビール。古典酒場の場合、なぜか生より瓶をほしくなります。

開店は17時で、ぞくぞくと常連さんがやってきます。「いく」というより、仕事を終えて「帰ってくる」ような足取りで。

席はL字カウンターの他、テーブルがいくつか。臨場感のある席に座りました。奥に見える高倉健さんのポスターがいいです。

定番のお酒は、千福、菊正宗の樽酒、八海山、にんにく酒(「臭いけど癖になる人も多いですよ」と女将さん)。紙のメニューではなく、いつからあるかわからない黒板に書かれているところが「うちの定番」感を醸しています。

千福の熱燗。とっくりが持てないほど熱々です。「ちゃんとした熱燗のお店」ではNGとされそうですが、これでいいんです。定番酒はこういう雑な飲み方こそいきると思っています。

菊正宗の樽酒。升でやってきます。白いお皿は「塩」。少し塩を舐めて、お酒で追いかけて口の中で溶かします。

ときおり、女将さんが声をかけてくれます。ワクチンはどうなったかとか、ちょうど今の瞬間テレビで流れたニュースとか。テレビってこういうお店でしか見なくなったなとか考えながら、ぽつりぽつりと会話をします。それから、また一人で食べて飲みます。

「くさや」です。
臭いです。奥深い香りとかそういうのではなく、シンプルに鼻に刺さる臭さです。臭い匂いを嗅ぎながら身を食べ(味はおいしい)、菊正宗の樽酒で追いかける。くさい、くさい。そして、多分これは臭いからおいしい。

樽酒の厚みのある甘み・旨みが臭さと合わさると、「これでいいんだよ」という気持ちになります。ベストじゃなくって「これで、いい」と。

古典酒場②丸新 レバーとレンチン燗とピーマン

2軒目は、おしえていただいた北浦和のやきとん「丸新」。人気店で、17時の開店と同時にいっきにお客さんが入ります。

忙しそうにきりもりする女将さん

このお店、実は日本酒が豊富です。冷蔵庫に張り紙のメニューがあり、そこには吟醸酒やレアな高級酒の名前が書かれていました。しかし、「定番」といえるお酒はカウンター上の短冊に書かれている菊正宗と越州の2つのみ。

お客さんほぼ全員が注文していた「レバテキ」。見た目の通り、おいしいです。

ピーマン千切り。生のピーマンって、いいつまみになるんですね。

日本酒、菊正宗の生酛を熱燗でいただきました。
とっくりに注いで、そのままレンチン。なぜだろう、こういうお店だと「むしろレンチンでよかった」とすら思えてきます。熱々ですが、熱々でいい。

伝票のかわりに、黄色のプラスチックが升に溜まっていきます。

おしんこなんて、普段居酒屋さんなどではまず頼まないのに、こういうところでは気になります。「新/古漬け」を選べるそうで、古漬けをお願いしました。

酸っぱいです。「うっ」となる、独特の酸っぱさがあります。ここに菊正宗の熱燗を合わせてみると、いいです。古漬けの個性が強く、またお酒も熱すぎて細かい相性とかはわからないけど「これでいい」とひとり納得します。

「これでいい」が定番酒と酒場のすごさ

大黒屋の看板。よい言葉です。

古い酒場で、名物のつまみと定番酒をいただいでると、ふと「これでいい」という気持ちになります。諦めというか、安心というか、とにかく「で、いい」気持ちが腹に落ちるのです。

こだわりの尖ったお酒は、古典酒場やそこに座る自分には、かっこよすぎる。派手じゃないけどしみじみ旨い定番酒くらいがちょうどいい。「これでいい」と、こだわらないことを選んだとたん、やけに落ち着くのです。

大黒屋

「最上」を楽しむお店も、もちろん好きです。
その一方で、仕事終わりにふらりと寄って「これでいい」を選ぶことで、肩の荷を下ろしていく。古い酒場にはそういう役割もあるように思ます。

「明日からがんばろう」というのは嘘くさいし、ポジティブは気恥ずかしい。だから、古い酒場とレンチンでも大丈夫な定番酒がしっくりくるのです。

今日もおいしかったです。ごちそうさまでした。

もちろん、お酒を飲みます。