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神田の隠れ家「眠庵」で、蕎麦と日本酒を嗜む。「蕎麦前」の意味がわかった気がする

新しいお店にいくとき、たいてい「誰かおすすめしていた店」に行きます。特に日本酒関係、飲食店の人がプライベートで行っているお店。

そんな中から今回、神田のお蕎麦屋さん「眠庵」に行ってきました。

・公開情報が少ない(HPには営業情報のみ)
・場所がわかりにくい
・基本的に予約制(電話のみ)
・ワンオペ

と、ハードルを感じるお店です。「蕎麦屋」といういまだちょっと緊張するお店で、日本酒を飲んできました。結果は最高でした。

駅徒歩3分。地図があってもわからない店構え

地図では、このあたり

JR神田駅から、Googleマップですぐそこ。ですが、わかりません。スマホが普及して以降、こんなに目的地近くをうろつくのは久しぶりです。

口コミの写真を見てやっと入り口を発見

ビルとビルの間、薄暗い小道があり、その奥がお店です。

小道の先に影が…先客でした
確かに「眠庵」の表札があります

開店にあわせてきたであろうお客さんが1組待っていました。公式な営業時間は18時〜ですが、その10分後くらいにゆったりとドアが開き、遅れたから別に何というわけでもなく、ゆるゆると中に通してもらいます。

店内はカウンター3-4名ほどと、テーブルが3つ程度。前述のように店主のワンオペとあり、数名の予約でその日はストップするようです。

オレンジの人が店主。お顔写真は「イヤイヤ〜(手をブンブン)」とのこと

お酒を呑ませる蕎麦屋メニューがこれだ

この日の開店時間のお客さんがテーブルに落ち着くと、店主がお酒を聞いて周ります。蕎麦屋さんですが、当然のように「お酒」ありきです。

お酒のメニューです。すごい

お店のレギュラーは喜久醉の普通酒(※地元向けの安めのお酒)。その他、静岡の日本酒を中心に日替わりで数十種類揃います。1人客の場合のみ、半合から注文可能。

コップ酒

お酒は、鰍(かじか)。普通のコップに注いで、ポンッと出てきます。

この「お盆」って、いいです。ここから何をどう載せるか。

お通しは「おから」。お店の人はワンオペで順次席を回るため、おからをつまみつつ、グラスで日本酒をすすります。こういうのがいい。

最近、酒器にこだわったり、ちょっと気の利いた提供方法をしてくれたりと、いい意味で“狙っている”お店が多いなか、ケレン味のかけらもないコップ酒とおからは、むしろ愉快です。

メインレベルの「蕎麦前」と静岡の日本酒がすごい

こちらがお店の白板メニュー。すごいと噂に聞いていた蕎麦前(つまみ)がずらっと並びます。そして驚くほど安い。

お酒を出す蕎麦屋さんって「小さな板わさ1000円〜」のようなメニューがあり、私はそこに「高い、むしろ良し」といった、ある種のエンタメ要素を感じていたのですが、眠庵はその逆。「さあ、存分に酒を呑め」と言わんばかりに、美味しそうで安価なメニューが並びます。

ここから、いただいたつまみ&酒を一気に紹介します。

とうふ(自家製)

名物のひとつ「とうふ(自家製)」。店主「塩か、そのままで」とのこと。

…………おいしい。大袈裟に「あま〜い」というのタイプではなく、ほろほろ崩れる食感の中から豆のコクが見えます。地味、そしておいしい。塩をひとかけすると、日本酒とバチっと合います。

牛肉と大根のバーボン煮

メニューを見て「何それ!」となった一皿。どんな変わったものが出てくるかと思うと、めちゃくちゃ「肉味」の強い、滋味深い味です。先ほどの豆腐と同じく「おいしっ!」とすぐに反応するタイプではなく、じわじわと口に旨みが残ります。

素材が強い味には、異物というか、雑味をある程度感じられる日本酒が欲しくなります。お店のメニューに「普通酒」「本醸造」とかが多いのは、そういう関係もなのかも、と想像しながら飲みます。

多分、志太泉(静岡)の秋上がり。肉の強さに負けない。いいです。

「多分」と書いたのは、眠庵は「地酒専門店」によくあるように、お酒の提供時に瓶をお客さんのところに出して、撮影(あるいはメモ)タイムを設けることがないからです。
グラスは交換制で、空いたら次のいっぱいが注文可能。どのように提供されるかというと、このように

規定量を注いだ計量カップから。

この店は、これがいいんです。うまくて良心的なつまみと&日本酒を、店主ひとりのリズムでどんどん出していく。大衆酒場のようながやがやではなく、あくまで「蕎麦屋」で、しっぽりのんびりした空気で。

めちゃくちゃ居心地いいです。

わさびセット

「これこれ!」といいたくなる、舐めて酒を飲む系の代表格です。日本酒は磯自慢のしぼりたて本醸造。雑味的なものを求めての本醸造でしたが、むしろスルッときれい。思わぬ合い方をするのも楽しいです。

丸干いか

体と足のちょうど付け根の部分がうまい

すごい、これは日本酒を飲ませにかかってます。お酒は小夜衣(さよごろも)山廃純米。注意してないと、ちびちびではなくパクパクとがっついてしまいます。

これらすべて「蕎麦前」。本来は蕎麦を待つ間に、ちょこっとつまむ存在。でも、もはやメインです、前だけど、日本酒が捗りすぎます。お腹も酔いも大満足です。

でもここまでが「前」。最後に本番の「蕎麦」で〆ます。

お酒のあとの蕎麦がうまいわけ

蕎麦屋で飲む年齢になったかと、あらためてしみじみ

蕎麦は2種盛り、「栃木」「富山」が順番に出てきます。
香りがすごいです。噛むほど口の奥からぐんぐんと、こおばしい香りと旨みが、ゴムボールみたいに膨らんでやってきます。

2種の違いは細かく書けないくらいの理解度ですが、とにかく美味しい。

……あれ、自分はこんなに蕎麦をおいしいと感じる人だっただろうか?

蕎麦自体は、大好きというほどではなくともたまに食べます。休日のランチに行く好きな店もあります。しかし、こんなに「香りすごい!おいしい!!」となったことは、あまり記憶にありません。なぜ。

……違いがあるとすると、それは日本酒です。

お店唯一の固定メニュー「喜久醉 普通酒」

蕎麦だけだと、多分「うん、おいしい」。
しかしその前に、日本酒×蕎麦前があると「おいしい!!!!」になる。

さまざまな味と食感の料理(蕎麦前)と多様な味の日本酒を味わうことで、お酒と料理の相性、接合点、変化など「味の凹凸を意識的に楽しむ」感度が、高まっているように感じるのです。

蕎麦前とは、蕎麦を待つ時間潰しではなく、
お酒とつまみを楽しみながら、徐々に味や香りに集中するモードになる、そのためのウォーミングアップになっていたのか。(多分、そんなはずはないのですが)

蕎麦の香りの強さと美味しさに、ひとりで「これが蕎麦屋飲みのポテンシャルか!」「蕎麦前の意味はこれか!!」と感動していました。最後の締めがピークになる、最高の物語だ、と。

出口。異世界から現実に戻るような気持ち

かねてより気になっていた「眠庵」、とても好きでした。

・あまり他の人気酒場と似ていない、独特の雰囲気
・お酒数杯が軽く捗る蕎麦前
・お酒の流れから、本番の蕎麦が最高においしくなる

機会見つけてまた早々に予約します。

ごちそうさまでした。


もちろん、お酒を飲みます。