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【飲む香水】ハンガリーのフルーツ酒「パーリンカ」を体験 Bar Pálinka(神楽坂)

「パーリンカ」というお酒を知っていますか?

ハンガリーの国民的なお酒(日本の日本酒)で、大量のフルーツを使ってつくる蒸留酒(日本で言う焼酎)。日本での知名度はほぼゼロ。

そして「めちゃくちゃおいしい」らしいのです。

今回、世界唯一のパーリンカバーという、神楽坂「Bar Pálinka」にお邪魔してきました。フルーツの蒸留酒…フルーツ風の焼酎?ブランデーみたいなとろりとした甘いお酒? など、いろいろ想像していたのですが、そのどれとも違う美味しさと出会えました。

神楽坂の「Bar Pálinka」へ

路地をしばし迷いました

神楽坂駅から徒歩3分ほど、大通りから少しはいった、石畳が広がる路地にあります。

世界観がすごい

カウンターからの景色です。中央の壁がくり抜かれ、そこにお酒(パーリンカ)やグラスが並びます。

こちらがマスターの松沢健さん。なんとハンガリー政府公認の「パーリンカ騎士団」だそう。なんてかわいくかっこいい名前の騎士団。

店内は6名程のカウンターと、奥にテーブルが2つ。壁はカラフルなタイル張り、渋いバーとはまた違う「パーリンカ的世界」な空間です。(写真には映らなかったので、ぜひHPを見てください)

パーリンカのトニック割

「今日は(お酒は)1杯目ですか?」とマスター。そうですと応えると、「じゃあ、最初は飲みやすいものにしましょう」と、カクテルからスタート。

ジントニックとかでおなじみの「トニック割」です。飲んでみると……フルーティー! 爽やかで甘みがあってめちゃめちゃクリアなやつです。上品でいやらしさがない。つい「ごくごく」いってしまう飲み物です。

パーリンカは、大量のフルーツを使った贅沢なお酒

改めて、「パーリンカ」というお酒を説明します。中央ヨーロッパのハンガリーのお酒で、原材料はフルーツ。それを発酵し、蒸留したお酒です。ウイスキーや焼酎と同じ蒸留酒のためアルコール度数が高く、40%程度が一般的。なかなかハードなお酒です。

原料はフルーツ。ハンガリーの緯度が北海道くらいのため北の果物が中心。プラム、アプリコット、さくらんぼなどバラ科サクラ属が中心でさらに、リンゴ、洋梨、イチゴ、ラズベリー、ナナカマドなどなど、ハンガリー産のものであればなんでも「パーリンカ」になるそう。

そしてそれらのフルーツを「大量」に使うのが特徴。500mlほどのお酒をつくるのに、なんと10kg前後もフルーツを使います。そんな効率悪いお酒ってあるんですね。

カウンターはこんな感じ。コースターまでいちいち可愛い

近いお酒で有名なものにブドウの蒸留酒「ブランデー」があります。ブランデーというと、琥珀色の液体でトロッとしていて深い甘みとコクがある、デザート酒のようなお酒です。この甘さのもとは「樽熟成」。ブランデーのあの色と味は「樽」からきているのだそうです。

一方パーリンカは、樽熟成はあまりせず、ほとんどが「ステンレス」で数週間程度熟成(むしろ休憩)する程度。そのため無色透明で、さらっとした飲み心地になるのだそう。

「もちろん、中には樽で熟成したものもありますが、せっかく大量のフルーツを原料に使っているので樽の香りに邪魔をされずに純粋にフルーツの香りを楽しめるように仕上げることが一般的です」(マスター)

糖度ゼロなのに甘い? 摩訶不思議なおいしさ

2杯目は、アプリコットのパーリンカ。ハンガリーではスタンダードな飲み方「ストレート」でいただきます。蒸留酒のストレートなんて、焼酎でも滅多に飲みません。ウイスキーだってロックがせいぜい。それなのに、急に40度の原酒を飲むのは、咽せる覚悟がいります。

…え、飲みやすい。口の中は完全に「フルーツの塊」です。とにかくフルーティーで、飲んだあと、鼻の奥から出てくる香りもすごい。口周り(喉とか鼻とか)がすべて「おいしいフルーツ」になります。

マスター「でもパーリンカは糖分ゼロです」

パーリンカは「蒸留」しているので、液体に糖分が残らないのです。なので「糖分ゼロ」、しかし不思議と、口に入ると「甘い」のです。それも飲んだそばからアルコールが揮発してフルーツ感が広がるので、舌というか身体が「甘くて美味しい」と感じます。信じられません。

マスター「本当に糖分はゼロです。香りと口当たりの柔らかさで、そのように感じるんだと思います」

「おつまみ」は「よもぎ餅」。バーに和菓子? と首を傾げますが……

マスター「パーリンカは、甘く感じますが糖分ゼロ。だからこそ、甘いお菓子と一緒に楽しめます」

合わせてみると、口の中で不思議なことが起こります。よもぎ餅は甘い。パーリンカもフルーティーで甘い。なのに「ベタッとしない」「重くない」で味わえてしまいます。すごい、重くない甘さなんて、ズルしている気分です。

※神楽坂の老舗の和菓子屋「五十鈴」さんの和菓子が多いようですが、その日によって提供の有無や内容は変わるそうです。

パーリンカ製造者のハンガリーのおじさん。お酒の味的に勝手にかっこいい若者をイメージしましたが、やっぱり酒は中年以上のおじさんが似合う。

こちらの本、ハンガリー政府公認の「パーリンカ本」。なんとここに「Bar Pálinka」も掲載されているとのこと。

ハンガリー公式だ

マスター「僕は『世界唯一のパーリンカバー』と言っていますが、あながち間違いではないんですよ。ハンガリーではパーリンカがあまりにポピュラーなため、そこら辺の気軽な飲み屋でビールと一緒に売られている。なんなら、電車で頬を赤らめているおじさんが持つ『ボルビック』の容器の中がパーリンカだったりするくらいです。つまり、あえて専門的に扱っているお店がないんですよ」

このパーリンカ、日本では輸入業者すらおらず、マスターがハンガリーに買付に行っているほか、自ら輸入会社を立ち上げて入手しているそうです。

超濃密な(そして軽い)ハーブのパーリンカ

白ぶどう、アプリコットと、マスター曰く「王道のおいしさ」を楽しんできました。ここでさらに面白いパーリンカをいただくことに。それは、ハーブとして使われる「エルダーフラワー」の実「エルダーベリー」のパーリンカです。エルダーフラワーにベリーって…あったんですね。

…うわっ、なにこれ。強烈なハーブ香です。首から上が全部ハーブになります。味わいは、ハーブの清涼感がありつつも、不思議とするっとやわらか。

エルダーベリーのパーリンカ、味というよりも「香りの塊」を飲んでいる(嗅いでいる)みたいです。だけどそれが、重くなく、いやでもなく、やけにスー──っと入っていく。不思議かつ、恐ろしいお酒です。

え、このお酒「チョコ」じゃん!

「ここまで、王道から変わり種までパーリンカを飲んでいただきました。ここで、ちょっと違う、けれど面白いお酒はいかがですか?」(マスター)

といって出していただいたのがドイツの蒸留酒「シュナップス」。その中でも、このアイテムは「ヘーゼルナッツ」を使ったシュナップスとのこと。ナッツでお酒ってできるんだ…。

(ラベルの小さな子のイラストは、お店のSNSアイコンになってます。アイコン、パーリンカじゃないお酒だったのか)

飲んでみると、完全にチョコです。香りも味(液体に糖分はない)もチョコ。チョコなのに、チョコより軽やか、でもチョコ。わかってても騙される騙し絵のように脳がバグる楽しさがあります。

棚にはアンティークのグラスが多数。100年前の骨董など、店主が海外で見つけてきた品々が揃います。

マスター、最後の一杯

という、居酒屋ではあまりやることのない(ラストオーダーです、の方が多い)オーダーをやってみました。ここまでで十分満足なのですが、〆に何か別の味がほしい。

最後にいただいたのは「カカオ」の「リキュール」。イタリア産の、70年前のものとのこと。冷戦の時代です。

「チョコ続きで、より濃厚なリキュールにしました。飲むよいうより、舐めるように楽しんでください」

ちょろっと口に含むと……

「これは飲んだ人は、みんなだらしなく幸せな顔をするんですよ」

と言われて、自分がものすごくニヤニヤしていることに気づきました。
濃厚でまろやかでチョコで甘くてパワフル。お酒特有のいやらしさが「チョコっぽさ」に集約されています。

日本酒でもワインでも、お酒は、一口の中にいろいろな味(甘、酸、苦など)があってそのバランスが楽しいと思っているのですが、いただいたカカオリキュールは「口に入る全味がおいしい」のです。ずるいというか、チートというか、おいしすぎる。

本当に「なめる」ようにゆっくりいかないと、手が止まらなくなります。

バーで飲む時間は、ただただ心地いい

「地球の歩き方」ハンガリー編がありました。パラパラめくりながら飲みます

普段、いわゆる「居酒屋さん」で飲むことが多く、お酒をメインにしっぽり飲む(高アルコールを)機会は、さほど多くありません。

しかしこうやってあらためてバーで過ごしてみると、これは楽しく、心地いいものです。

まず、パーリンカの未知の味が、新鮮で楽しい。
それをプロの技で一番おいしい形で提供してくれることがありがたい。
さらに、バーテンダーの所作(氷を削ったり、注いだり)が心地よく、それを眺めるだけでもう一杯すすむ。
加えて、暗くも眩しい、日常の延長にない空間。

バー・パーリンカ、いいです。

高アルコールのお酒を数杯いただいたはずなのに、なぜか「酔ったー、頭重い」という風にはならず、むしろクリア。いまだに不思議です。

新しいお酒を知るのは純粋に楽しいものです。パーリンカは、そんな趣味の範囲をこえて、めちゃくちゃ楽しいお酒でした。

人生初のパーリンカ、ご馳走様でした。


もちろん、お酒を飲みます。