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蕎麦屋で日本酒を呑みたい!【浅草・恒】で大人の嗜みを学ぶ

かねてから憧れていた行動のひとつに「蕎麦屋さんでお酒を飲む」というものがあります。

粋というか、知っている大人というか。そういう類の憧れです。特に「昼から」がいい。ファミレスで昼から飲んでたらやばいけれど、昼から蕎麦屋でひっかけるのはかっこいい。

しかし、なにぶんよくわからない。実は蕎麦の味もよくわからないし、やたら高い「板わさ」を本当に頼むべきなのか、何がマナーなのかも…。

長年燻っていた夢を叶えるべく、思い切って蕎麦屋さんにいってきました。

蕎麦屋さんは「昼から」酒が飲める

とりあえず行きました。街の蕎麦屋さんです。

平日の昼、ランチライムの終わりごろ。日本酒がおいしいと聞いた浅草の蕎麦屋さん「恒」へ行きました。

そもそも、昼から飲めるのでしょうか。たとえ居酒屋さんであっても、ランチ営業をしているときはお酒の提供をしていないケースがあります。事前に電話で聞いてみたところ、つまみも酒も、夜同様のメニューを注文してOKとのこと。

蕎麦屋さんは常に飲めるのか。

「外一蕎麦」。ニ八は聞いたことがありますが、9割になるとそんな言い方になるのか。

今回は初のチャレンジとあり、事前に作戦を練ってきました。

「軽く2品ほどつまみ、蕎麦で締め、颯爽と帰る」

これでいきます。

蕎麦屋さんのつまみメニューは豊富!

店内の様子。おかみさんと息子さん(多分)のお二人で切り盛りされています。

13時台とあり、まだ純粋にランチ(天ぷら蕎麦セットなど)を食べている人の隣の席で、とりあえずお酒を注文。なぜか少し緊張します。昼から飲む背徳感ではなく、無相応な高級品に手を出すときの「慣れていない昂り」です。

刈穂。「蔵付自然酵母」というパワーワードに惹かれました。
お酒を頼んだ人には「揚げ蕎麦」の小鉢がついてきます。

おかみさんがニコニコしながらお酒を注いでくれました。
冷たい日本酒、おいしいです。ひとくちで脱力します。

まずは「蕎麦屋で呑む人」であることをお店の人に示すことができました。ここから「軽く1〜2品つまむ」に移ります。世にいう「蕎麦前」です。

手書きタイプのメニューが何枚もありました

メニューはお酒、メインの蕎麦、そして「つまみ系」があります。読んでみると
鴨、穴子、ニシン、地鶏といった「蕎麦屋っぽい一品」、
海老天、かき揚げ、穴子天といった「揚げ物系」、
板わさ、サメ軟骨、ママカリなど「つまみ系」まで。

蕎麦屋さんのメニューって、なにげに多いです。

そこらへんの居酒屋さんくらいの豊富さです。そしてそのどれもが「蕎麦屋さんっぽいよい雰囲気」を醸し出しています。

「焼き味噌」「穴子」蕎麦屋のメニューは「香ばしさ」がお酒と合う!

焼き味噌

しゃもじに肉味噌を塗り、蕎麦の実をちらし、パーナーで炙った一品。
がんばれば一口で食べてしまえる小さなサイズなのが、いかにも「蕎麦屋さんっぽい」です。

………おいしい。炙った蕎麦の実のこうばしい香り、同じく焼き目のついた味噌。「わかりやすい味」ではないけれど、香り・味・余韻とかが複雑に絡みます。

そしてこの香りが日本酒と合います。そうか、香りで飲むのか、蕎麦屋のつまみは。

たまらず日本酒をおかわり

2杯目は、「裏・死神」を注文。すーっと綺麗、かつ後味がしっかり。焼き味噌にぴったり合います。

「どちらのお酒がお好みでした?」と店主が気にかけてくれます。話を聞くと、「恒」ではさまざまな日本酒の「裏ラベルシリーズ」という、ラベルが反転されたレアなお酒に力を入れているのだそう。

「『裏ラベル』の定義はありませんが、通常はブレンドに使われる希少な『責め』部分のことが多いですね。僕が好きな酒蔵さんにお願いして、小ロットわけてもらっているんです」

※責め:醪を搾るときの段階によって名称がつきます。しぼって最初の方にでるのは「あらばしり」で荒々しい感じ。真ん中は「中取り」でバランスのいい味わい。最後の方に圧力をかけて搾り切るのが「責め」。パンチのある味になることが多いそう。

他にも、裏・ロ万、裏・流輝、裏・亀齢、裏・居谷里などなど、あまり見たことのない裏ラベルのお酒がそろっているそうです。店主はあまり口数の多いタイプではないようですが、日本酒の話となると饒舌になります。女将さんはニコニコしながら「(お酒が)好きなんですよ、この人は」とひとこと。

よいです。日本酒好きな店主のお店で呑むお酒は、間違いなくおいしいです。

続いて穴子の白焼。生の花山椒をちらしていただきます。

焼いた香ばしさがあり、パリッとした皮目の食感があり、その下の脂があり、噛むほど味がひろがる白身がある。これらの要素の層が絡まって口の中にじわじわと広がるのが、とてもおいしいです。

おそらく、普通の居酒屋さんでメニューでてきたら、「層」とか面倒なこと考えずにバクバク食べていると思います。でもここは蕎麦屋。思考に蕎麦屋フィルターがかかることで、複雑な要素の組み合わせをや変化を、じっくりと楽しむことができます。

表面張力

たとえば、酒場で楽しく呑むことが「発散的」の楽しみだとすると、蕎麦屋で呑むことは「内省的」な楽しみ、のような気がします。急がず、慌てず、じっくりゆっくり、口の中の変化を感じながら、お店の空気や控えめな会話たちに浸る。

そうか、これが「しっぽり」なのか。

〆の蕎麦…じゃなくて蕎麦でも飲める!

2色盛です

ついついじっくり楽しみたくなりますが、長居は無用です。「恒」の名物の2色蕎麦を注文。すると…ビジュアルが、すごい。特に右の「田舎蕎麦」は、二郎的なわしわし感を連想させるパワー系です。なぜか「ピンク塩」がついてきます。

「田舎蕎麦の方は『塩』をふりかけてもおいしいですよ。濃くならないように、あくまでパラパラ振る程度。これだけでお酒がすすみます」と店主。

もういっぱいだけ

そう聞くと、お酒を頼まずにはいられません。「裏・杉勇」、今日飲んだ3杯のうち、一番好みでした。少しとろっとしていて、バランス型。

田舎蕎麦を合わせてみると、本当にお酒が進みます。塩味はあくまで最初の接合点で、次々と香りや甘味や蕎麦味(?)がぐいぐい出てきます。 そこに日本酒がきゅっと入ると、完璧です。これはよい、これだけであと1時間楽しめる。

「おっしゃっていただければ、先につまみになる方(田舎)だけ出すこともできますよ」と店主。そういう酒呑み用のオーダー方法もあるんですね。

「実は蕎麦屋って、お酒を飲む人にあわせて融通が効くんですよ。たとえば『天ぷら蕎麦』でも、『てんぬき』というと、先にてんぷらだけをお出しします。天ぷらでお酒を飲んでいただいて、蕎麦は最後の締めにする、という風に。人によってさまざまですが…なんだか粋ですよね」

かっこいい。全然知りませんでした。やりたいですその通っぽいオーダー方法。

蕎麦屋呑みはカスタマイズが楽しい(らしい)

その後、せいろそばも少し塩を振ってみたり、やっぱりそばつゆでいただいたりと、蕎麦屋のみを満喫しました。

ハードルが高いと思っていた蕎麦屋呑みですが、自分の好みや楽しみ方によってカスタマイズできる、お酒好きにとってとても贅沢な空間だということを知りました。

蕎麦屋で飲む、今年は自分流の楽しみ方を探していきます。
恒さん、ご馳走様でした。

もちろん、お酒を飲みます。