日本酒の酒米農家さんの頂上決戦!「最高を超える山田錦プロジェクト」(獺祭・旭酒造)
日本酒の原料である「酒米」。
お酒を飲むとき「造り手さん(杜氏とか)」はなんとなく想像することがあっても、原料の「米」を誰がつくってるかまでは、考えたことすらありませんでした。そんな折、次のプロジェクトの発表会があると聞きました。
「最高を超える山田錦プロジェクト」
「獺祭」で知られる旭酒造が2019年から取り組むプロジェクト。獺祭の原料となる酒米「山田錦」の農家さんが「最高の山田錦」を競う米の祭典です。2021年の発表会にお邪魔しました。
農家さんたちの戦い、熱かったです。
発表の舞台は帝国ホテル
帝国ホテルの発表会場には、予選を通過したトップ農家さんたちや、獺祭を唎酒するソムリエさんたち、メディア関係者などが集まっていました。
審査基準は「ふっくらとした厚み」「心白が中央にはっきりある」「かけ、ひびなどがない整った形」「透明度」。さらに、今回からの新基準として「心白が小さい」ことも加わりました。
あれ? 心白って大きい方が効率的にいいお酒が出来るのでは…と思ったのですが、これは「獺祭を美味しく造るため」の基準。獺祭は米の外側を沢山削るため、心白が大きいと割れやすくなり、「最高の獺祭」を造るには向いていないそうです。実際、2020年のグランプリ米は山田錦としては最高ながら商品としては世に出ていません。
グランプリ山田錦の農家さんには、市場価格の25倍という「60俵3000万円」賞金が贈呈されます。すごい。
最高の山田錦の味は「モニュメンタル」だ!
こちらは「現役トップソムリエに、2019年度のグランプリ山田錦で造った獺祭をテイスティングしてもらうプログラム」のひとこま。
プロのさまざまなテイスティングコメントをきくことで「最高の山田錦のお酒の味」を想像するというものです。コメントのレベルが高すぎてただ「すげぇ」としか記憶がないのですが、残っているメモによると
白檀、スムース、リニヤな酸、とにかく長い余韻、そして…モニュメンタル
とてつもなく、とてつもないお酒になることが伝わることでしょう。
キャラの違いがおもしろい農家さん対談
続いては、2019年、2020年の歴代グランプリ受賞者の対談です。
2019年チャンピオンの栃木県・坂内さん(山田錦歴6年、他の作物は野菜・米、獺祭のつまみは鮪)は、当初は出品する予定すらなく、知り合いのすすめで出したところグランプリを受賞。まるで芸能界デビューのエピソードです。とにかく謙虚で、「天候にはかなわない」と、自然との共存の大切さを話します。
一方、2020年チャンピオンの福岡県・北嶋さん(山田錦歴9年、他の作物はニンジン・アスパラ・じゃがいも・米、獺祭のつまみは明太子)は、「常に1位を目指す!」と豪語。また「田んぼに塩を撒いてみた」「いつかオニギリサイズの米を作りたい」と遊び心たっぷりの一面も。
同じ山田錦のチャンピオンといってもキャラクターが正反対で興味深いです。
ついにグランプリが発表!
いよいよ、2021年のグランプリの発表です。
高田農産!高田農産さんが獲りました!!
高田農産の高田さんです!岡山県、他の作物はビールの麦や酒米、獺祭のつまみは刺身やチーズ!山田錦歴は約25年のベテランがグランプリに輝きました!
王者インタビュー「胴割れはさせない!」
ーーおめでとうございます!
「まさか、(グランプリを)獲れるとは思っていませんでした。もちろん、コンテストに出すからには最高の山田錦をつくりたいとは思っていますが…自信はなかったです。昨年、受賞された北嶋さんの山田錦を見せていただいたのですが、あまりに素晴らしすぎて…うちでは無理だろうと思っていました」
ーーそれでもチャレンジした理由は?
「前回はだめでしたが、今回は『心白が小さいほうが適している』という新しい基準になったこともあり、改めてチャレンジしてみました。
栽培方法については、有機の肥料を使い、敷地の中でも特にいい場所を定めて『ここで最高の山田錦を作る』と決めて取り組みました。今年は災害も少なく、収穫も米屋の師匠(という存在がいる)と相談しながら計画的に進めることができました」
ーー2020年チャンピオンの米は結果的に商品にならず、それを見て「敵わない」と感じた高田さんのお米が翌年受賞…運命のいたずらを感じずにはいられません。
ーー苦労したポイントを教えてください。
「収穫をした10月に30度を超える日が続きました。通常、米は収穫後にすぐに乾燥させるのですが、気温が高すぎると胴割(ひびができること)を起こす恐れがありました。そこで、乾燥作業をずらして、気温が落ち着く夜間におこなうなど工夫をしました」
ーー歴代の受賞者は山田錦歴が10年以下でした。しかし高田さんは25年。ベテランの強さを示しました。
「うちは先代から山田錦を栽培しています。(負けてられない?)ええ、そうです。親父も喜んでいると思います」
ーー「最高の山田錦農家」としてのポリシーをお教えください。
「胴割れは、絶対にさせない。米作りには、苗があり、収穫があり、最後に乾燥・籾磨があります。最後に妥協して胴割を起こすと、すべてが水の泡です。
お米を買っていただける以上、最高の状態で使ってもらうこと。そのためにも、人の作業によって米を割ることは絶対にさせん…これは、親父からもいわれてきましたし、(一緒に田んぼに出ている)息子たちにも強くいっています」
ーー最後に、これからの目標をお教えください。
「連覇を目指しますよ。賞金も設備投資に使います。今日は息子も会場に来ていたのですが、は『次はお前じゃぞ』と伝えました」
造り手が見えると、日本酒はもっとおいしい
当たり前のことではありますが、お酒には原料があり、そこには人がいます。
獺祭=大手で純米大吟醸のお酒というと「機械的」な雰囲気を想像しそうになりますが、こんなにも農家さんとの関係を大切にされているんですね。
ちなみに、獺祭は高精米(お酒にならない米粉がたくさん出る)のお酒を作る一方で、その過程で出た米粉や酒粕などは余すところなく活用しているそうです。
これまであまり知らなかった「酒米農家さん」たちの祭典、面白かったです。
「胴割れは絶対におこさん!」
次に日本酒を飲むとき、思い出してみます。
もちろん、お酒を飲みます。