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ほげぇデカくて美味いずら。

 今日はみどりの日でお休み。

 始まったばかりの頃はああ、休みが沢山あって素晴らしいなぁと思っていたがもう半分過ぎてしまった。

 連休が終わってしばらくしてやってくるのが5月病でこれは何も新人にだけ訪れるわけではない。

 バリバリのサラリーマンでも心の隙間に忍び込む闇のせいで、急に調子を落とすことがある。

 私自身一年で調子が悪いなぁと感じるのはやはり今の時期位から梅雨が明けるまでである。

 五月の爽やかな陽気に誘われて遊び惚けていると必ずツケが回ってくる。

 何となくやる気が起きないし、何をしていても楽しめないという気持ちになってしまうのである。

 そんな憂うつを吹き飛ばすのにはやはり美味しいものを食べるのが一番である。

 それも地元に根差した料理を口にすると元気がモリモリと湧いてくる。

 一番うれしいのは何と言ってもフグであるが、これは旬が冬の物なので春は少し時期外れである。

 ならば他の物としては瓦の上でそばを焼いた瓦そばも捨てがたい。

 これは通年を通して食べられるのでよくお世話になる。

 それ以外だとやはり元気の象徴としてはクジラ料理がある。

 私の地元は昔からクジラ漁が盛んでよく食べられていた。

 どのくらいポピュラーかと言うと学校の給食にしょっちゅうクジラの竜田揚げが登場していた。

 これは冷めていてカチンカチンに硬いのだが噛むと脂がジュワッと湧いてきて噛みしめる度に旨味が出てくるとても奥深いものだった。

 人によっては臭いとか硬いと言って敬遠されるクジラ肉だが私は幼いころから実家でもよく口にしていた。

 一番よく食卓に並んだのは刺身で半解凍の状態を生姜醤油で食べると歯に冷たいクジラ肉がさっくりと刺さり、それから血の味がしてその後に獣の肉の味を感じるワイルドな一品だった。

 他には串揚げや唐揚げのような揚げ物もよく口にした。
串揚げはソースをドブドブかけて齧ると衣と硬いクジラ肉が分離してしまってちょっと切ない気分になる事が多かった。

 唐揚げはレモンを絞って一口でがぶりと行くと弾力のあるクジラ肉が口の中で暴れてとてもワイルドな気持ちになったものである。

 そんなクジラ料理の盛んな土地で育ったが、何だかんだで思い出深いのははりはり鍋である。
 
 クジラ肉と水菜だけで作るシンプルな鍋でカツオと昆布で取っただし汁に具材を入れて煮込んだら出来上がりである。

 クジラ肉は鍋専用の薄切り肉があったと記憶している。

 水菜は比較的手に入りやすい野菜で独特の苦みがクジラとの相性が抜群である。

 晩ご飯がはりはり鍋の日は祖父も父も何だか楽しそうでどちらが鍋奉行を務めるかでにこやかに話していたものである。

 大抵は父が奉行を務めることになり、鍋にドサドサと水菜を入れてその上にクジラ肉をこれもまたドバッと加えてフタをして待つ。

 その間にクジラの刺身があれば大人は大満足していた。

 子どもだった私も高級な部位である尾の身を少しだけ分けてもらってお相伴にあずからせてもらっていた。

 そうこうするうちに鍋が煮えるのでフタを取るとフワッと湯気が上がった。

 鍋の中に入っているのはクジラと水菜のみなのに何だかご馳走の匂いがした。
鍋を覗き込んで脂身の多いお肉を兄弟と狙いあったのもいい思い出である。

 はりはり鍋のクジラはキュッとした歯応えで何度噛んでも美味しい味がしてたまらなかった。

 お肉ばかり食べていると、こら、水菜も食べなさいと母から怒られるのも定番だった。
安価とは言えそれほど裕福ではなかった我が家ではクジラ肉はご馳走だった。

 大体年に四・五回口にできれば上出来である。

 あれから時は流れクジラも随分と割高になってしまった。

 最後にはりはり鍋を食べたのは何時の事だったろうか、ちと思い出せないでいる。

 クジラは縁起物なので今度見かけたら買ってみようかな。

 あの頃の懐かしい思い出と一緒にグニグニと噛みしめたい。

 さあ、今日は何を食べようかな。

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