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「本多正信の鉄砲」

どうする家康の最終回を見ていたら、どうにも妄想が止まらなくなったので、こちらに投下してみるなり。
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「佐渡守さまは武功がない」
「大御所さまもいかさま師と言うておるし、戦のときは逃げておったそうな」

「などと若い家臣たちが噂をしておるようです」
二条城での軍議のあと、秀忠が家康にふと漏らした。徳川四天王と呼ばれた強者は既に亡く、彼らの本気の軽口であった「いかさま師」や「偽本多」だけが若い者たちに伝わり、武を重んじる者の中で正信に向けたあざけりになっていた。正信はその知恵で戦のみならず政でも重きをなしていたが、武士である以上武勇のあるなしというのは大きい。

「平八郎の槍が正信にとってのここなのだかなあ」と、家康は頭をとんとんとたたく。左様でと秀忠が苦笑いをする。言葉一つで状況を変えてしまう事も大きな武勇だとこの男もわかっていた。

………

茶臼山に陣を張ると
「どうだ正信、久しぶりに鉄砲を撃ってみないか」
と家康が問う。
「また殿を狙うかもしれませぬぞ」
ニヤリと笑う。周りにいる若い者たちが(今なんと?)(なにか物騒なことがきこえたような?)という顔をしている。
「守綱に頭を叩かれたどころではなかったな」
「ほんにあのときなぜ仕損じたのかと」
周りの者の顔色が変わってきた。それには構わず家康と正信が顔を合わせ、懐かしむように笑った。
「皆の者よく聞け、ここにおる本多佐渡守は唯一人、儂に鉄砲を当てた者ぞ。昔話だがな」
「それをお許しになった大御所さま、感謝しております」
頭を垂れる正信。その場にいたものは隠されていた正信の鉄砲の腕と家康の心の広さにぽかんとしている。理解が追いついていないようだ。

………

陣の前が騒がしくなった。家康が吠える。傍らに控えた正信が真田の兵を撃ち落としていく。膝をさすり背中の丸まった老人だっはずなのに若者に劣らない命中力。横目で見た者たちが高揚していく。仕える将が将足り得た喜びというのはこういうものか、伝説を持っていたのは家康だけではなかったと。

………

「また生き延びてしまいましたな」
鬨の声が静かになり眼の前に広がる敵兵の骸を静かに見ながら正信がつぶやく。
生き延びたからにはきちんと始末をつけねばならない。大坂城の天守が燃えている。長きに渡った戦国という時代の終焉へ最後の始末が待っている。家康はゆっくりと立ち上がった。

#どうする家康
#短編小説
#二次創作  


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