『統合失調症の一族』感想
『統合失調症の一族』を読んだ感想文です。
(※性的虐待、性暴力への言及があります)
登場人物が多いので、兄弟姉妹の名前と簡単なプロフィールを上から順に書いて、発症した順に印をつけると状況が把握しやすくて読みやすかった。
きょうだいがどんどん発症していく前半は特に壮絶。
下の姉妹2人がケア役を押し付けられるヤングケアラーのきょうだい児でもあり兄から性的虐待されている状態で、機能不全家族の問題も複雑にからみあっていて、かなり気が滅入ってしまった。
そしてさらに母親に育児をほとんど全部押し付けて仕事に逃避していた父親は脳梗塞を起こして後遺症が残ってしまうという……。
このご家庭は全部で子どもが12人もいて、そのうち上から10人が全員男性なんだけど、長男のドナルドが10代後半になったときに、兄弟間の喧嘩が凄まじくて殴り合いとか平手打ちしてて、家庭内なのに治安が悪すぎてびっくりした。全く落ち着ける場所ではなくなっている。
てか9歳も年下の弟に意地悪する兄ってどうなんだよ……小学生と高校生じゃ体格が違いすぎるじゃん……手加減しなよ……。
まるで問題だらけの大家族ドキュメンタリーのようだった。
1940~60年代にかけて、統合失調症と母親が関連付けられて「統合失調症患者はきまって、母性本能が倒錯した女性に育てられている」(p.73)と言われていたのは、自閉症は母親の愛情不足や冷蔵庫のような冷たい母親が原因と言われていた状況によく似ている。
統合失調症を発症しなかったマイケルが若い頃に参加したヒッピーのファームで行なわれていた、
という男性同士がそれぞれの問題を言語化して語り合うような取り組みは、男性特有の問題を解決するうえで素晴らしいように思える。
ギャスキンが権力を握り、四人婚や六人婚を行ってたファームそのものは、良いとは個人的には思えないけれど。
(※四人婚・六人婚:そのカップルのなかでお互いの夫もしくは妻を共有する独自の結婚制度)
後半にさしかかると、どのように対処していたかや、きょうだいのそれぞれが自らのトラウマにどう向き合っていたかに焦点があたっていく。
特に印象的だったのは、19歳になった末娘のリンジーがセラピーのセッションを受けて自分のトラウマを語る場面だった。
そして、リンジーとマーガレットは似たような痛みを発見し、お互いに慰め合えることに気づく。この頃にリンジーがマーガレットに勧めた本が本文で紹介されていてわたしも気になったし、日本語に翻訳されているので以下に載せておく。
わたしは、子どもたちの母親であるミミが20年かけて12人の子どもの妊娠陣痛出産を繰り返すのはとても大変だし、10人を産んだ時点で産婦人科医にドクターストップをかけられて、12人目を産んだ後にとうとう子宮摘出を提案されて受け入れたほどで、なぜそこまでして多くの子どもを産んだのだろうと不思議だった。
リンジーの姉であるマーガレットはリンジーの紹介でセラピストをみつけ、セッションを受けて自分のトラウマに向き合っていくうちに、母親について、こう考えるようになった。
そして後々、高齢になった母親ミミの視点からはこう書かれている。
医師による面談で当時流行していた「統合失調症誘発性の母親」説の矢面に立たされた(p.204)、つまり息子たちの全員の精神の錯乱を招いた原動力であったと暗に言われていたミミ側の事情も考慮すると、とても複雑な気持ちになった。
合間にはさまれる精神医療研究のエピソードでは、リン・デリシという女性医師がメディカルスクールに編入する際の面接で自分のキャリアよりも家族のほうが重要かや避妊する予定があるかなどを訊かれるような、女性ならではの女性差別の壁にぶつかりながら、統合失調症研究に熱心に取り組んでいく様子が書かれていた。
また、製薬会社が統合失調症のためにもっと良い薬を開発したがらない背景――つまり、何か新しいものを開発するために資金を費やすことを金銭的に正当化するのが難しいという事情(p.367)や統合失調症患者は自らの権利を主張したり擁護したりする術を持たない(p.382) ということ――も知ることができた。
統合失調症研究のためのDNAサンプルとして生体組織を提供しただけでなく、インタビューや日記や手紙などの個人的な資料まで提供して、家族の経験をノンフィクションというかたちで共有してくれたギャルヴィン家の方々に敬意を表したい。
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