【映画所感】 “極私的2022年鑑賞映画TOP10”
遅ればせながら、新年あけましておめでとうございます。
2022年1月1日〜12月31日までを区切りとして、独断と偏見、異論・反論どこ吹く風を心情に、おもしろいと感じた作品を勝手にランキングして以下に発表していきます。
最後までお付き合いのほど、よろしくお願いいたします。
【第1位】 RRR
「映画」が“娯楽の王様”として君臨していた時代から、突如タイムスリップしてきたかのような作品。絢爛豪華な“映画絵巻”を3時間、心ゆくまで堪能できる。
ツッコミどころは満載なのに、アイディア豊富なアクションと“どろソース”ばりの濃厚な演技で、エンディングまで押し切られてしまう。
異例のロングラン中なので、まだ間に合ううちにぜひ劇場で鑑賞していただきたい。
【第2位】 さかなのこ
テレビ東京の名物番組『TVチャンピオン』の「魚通選手権」において、その博識ぶりと特異なキャラクターで、一躍お茶の間の脚光を浴びた、さかなクン。
波乱万丈のさかなクンの半生を、沖田修一監督が固定観念を取り払って、エンタメ要素増し増しで映像化してみせた。
“家族愛”に収斂していく美しい構成は、現在公開中の大作『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』とも呼応する。
だが、断然本作のほうが、ストレートに胸を打つし、問題提起もしっかりと余韻に含んでいる。
【第3位】 愛なのに
監督・脚本:城定秀夫、共同脚本に今泉力哉という鉄壁の布陣が贈る恋愛コメディ。
本作『愛なのに』は、約1ヶ月後に公開された『猫が逃げた』(監督:今泉力哉、脚本:城定秀夫)と対をなす、いわゆる“連作”映画の1本だ。
どうせなら2本観てから、感想を書こうかと思っていたが、『猫が逃げた』のほうは、諸事情から劇場に赴くことはできず、後日だいぶ経ってから配信での鑑賞に。
このような理由で、本作に関するレビューは、残念ながら「note」には書かずじまい。
とにかく、婚約中にもかかわらず不貞を働く亮介(中島歩)のクズっぷりと、浮気相手の美樹(向里祐香)のリアルなやり取りが凄まじい。
女性からあんなふうに本音を語られたら、心臓バクバクで過呼吸必至。しばらく立ち直れそうにない。
間違いなく2022年、もっとも心に刻まれたセリフであり、もっとも笑わせてもらったシーンだった。
【第4位】 ちょっと思い出しただけ
恋人同士だったふたりの6年間を、特別な日“7月26日”を1年ごとに遡ることで表現する手法は、斬新で秀逸。
深夜0時レイトショー鑑賞後、雑踏を自転車で駆け抜けて帰路についた。そのときに感じた、得も言われぬ多幸感は、1年近く経った今でも鮮明に覚えている。
【第5位】 ライダーズ・オブ・ジャスティス
爆弾テロの犠牲者家族が、仲間とともに復讐するといった単純明快なノワールものかと思いきや、予想外のホームコメディへと様相は一変。
武骨な軍人、マッツ・ミケルセンに協力する3人組のやり取りが、実に微笑ましい。
珍道中が進むに連れて、3人それぞれが抱えるトラウマも露わになり、セラピー映画としての側面も垣間見えてくる。
夢見心地になるようなエンディングは、心身ともに癒やされる。
【第6位】 シン・ウルトラマン
結局、5回も劇場に足を運んでしまった。
万人受けする映画でないことは百も承知。しかし、自分にとって庵野作品は、どの監督の映画よりも中毒性が高い。
2016年の『シン・ゴジラ』以降、ノスタルジーといった凡庸な言い回しでは説明がつかないほどに、“シン・シリーズ”では毎回テンションが上がる。
幸か不幸か、ファンというより、もはや信者といったほうがいいだろう。
【第7位】 マイスモールランド
日本で暮らすクルド人の家族。難民申請が不認定となったことで起こるさまざまな変化が、17歳の少女の未来に不穏な影を落とす。
迫害から逃れるため、幼少期に家族で日本にやってきたサーリャ。日本で教育を受け、文化に慣れ親しんできた彼女のアイデンティティは、もはや日本人と何ら変わらない。
ごく普通の高校生のサーリャは、突如、在留資格を失ってしまう。
自分はこの先、どうすればいいのか?
愛する家族は、どうなってしまうのか?
パンフレットまで買って、「note」で感想レビューを書く気でいたのに、あまりに重いテーマを孕んでいるからなのか、とうとう書けずに今日まで来てしまった。
自身の泣き言はさておき、本作はノンフィクションのドキュメンタリーかと思えるほど、主人公の日常生活や、家族との接し方が自然だ。
主人公のサーリャを演じた嵐莉菜の、実生活での父、妹、弟が同じくキャスティングされて家族を演じているという事実が、物語のリアリティにさらに拍車をかける。
本作が、劇場長編映画デビュー作となる川和田恵真監督の緻密な取材と下調べが、まごうことなき傑作を誕生させた。
難民問題をどこか遠くの出来事で終わらせてしまわないために、敢えてフィクションの映像作品にすることで、より身近に感じられるようなストーリーを創り出す。
クルド社会に根強く残る、家父長制度や婚姻に対する考え方をさらっと俎上に載せてみたり、厳しい状況の中、令和の『ロミオとジュリエット』的な、純愛エピソードが挿入されたりと、エンタメ要素もしっかり押さえている。
鑑賞後は、「無知で無関心でいるということは罪」であると、思い知らされるだろう。
【第8位】 神は見返りを求める
ユーチューバーを標榜する者たちの悲喜こもごも。
メディアでの露出が増えるにつれ、評価もうなぎのぼりな俳優、岸井ゆきの。
彼女の比類なき演技力が、一攫千金に群がるクリエイターたちの残酷な現実を際立たせる。
そして、若葉竜也。彼だからこそ演じきれた“邪悪”。
ムロツヨシを媒介にして、旬の役者ふたりの共演を観られただけで、感無量だ。
【第9位】 シャドウ・イン・クラウド
あらためて思い返してみると、“B級バカ映画”などと、ひとくくりに語られる代物ではなかった。
アクション、ミステリー、ホラー、SF要素てんこ盛りの贅沢な内容。
加えて、男社会に対するアンチテーゼまでも含み、現実の問題にもしっかりと一石を投じてくる完成度。
公開規模の大小だけでスルーしなくて、本当に良かった。
【第10位】 ある男
安藤サクラ、窪田正孝の巧みさはさることながら、本編中盤に登場する柄本明がすべてを凌駕するほどのインパクトを残す。
体から悪意が滲み出るとはこういうことなのかと、チカラ技でねじ伏せられる。
2022年で一番のモンスターに出会ってしまった。
実生活でこういう人間が周りにいなくて本当に良かった。
いや、自分のこころの中にこそ、潜んでいるのかもしれない。
【総評】
2022年は、なかなか思うように「note」に原稿をアップできませんでした。
スランプやイップスというのもおこがましい。生来のなまけ者が、いつものように先送りしていただけなのです。
決しておもしろい作品に出会わなかったわけではありません。例年通りかそれ以上に、良作を楽しんだ一年でした。
上記のランキング以外にも、『トップガン マーヴェリック』、『THE BATMAN』、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』らの大作はもちろん、『ブラック・フォン』に『エルヴィス』、『ブラックボックス 音声分析捜査』、『NOPE/ノープ』など。
邦画では、『さがす』に『サバカン SABAKAN』、『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』、『四畳半タイムマシンブルース』などなど。
どれも甲乙つけがたい作品ばかり。この勢いで今年も大いに非日常を楽しむつもりです。
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