蟹男 4話目
食事のかたづけが済むと、ソウとソレさんは、もう寝支度にかかっている。
今日の僕は、昼間に二回も強制的に寝ていた様なもなので、目がさえてしまっていた。
僕があてがってもらっているのは、おそらく、客間だと思われる部屋だ。
さっき食事をしたのは、キッチンが併設された居間だった。
そして、僕のいる客間から、その居間をはさんで、ソウの部屋はある。
寝支度を終えるころをねらって、僕はソウの部屋の前へ行った。
ドアをノックするのをためらい、おさえた声で「ソウ」と、一回だけよんだ。
『この世界にはノックの風習がないかも』とか、そんなことに気が回ったわけではない。
すでに寝てしまっていたら、用件は明日でもいいかと思っていたからだ。
少ししたらドアが開いて、ソウがヒョコっと小さな顔をのぞかせた。
こうみると、ソレさんに似ていることがわかる。
「なに?」と、にこやかに問われた。
それから「入る?」と、ソウはいってくれた。
僕は「いいの?」と、返す。
入れてもらうつもりで、来ていたけど。
「いいよ」といってもらえたので、頭をかがめて、ドア枠をくぐる。
「(おじゃましま~す)」
自分でも気付いてないけど小声でそういっていた。
たぶん、ツレの部屋に入るときも、いっている。
若干せまいが、ベッドの数をのぞいて客間とそんなに変わらない。
筆記や軽作業用だろう机のイスを、さし出してくれた。
当然ハーフリングサイズなので、ひくいが、座らせてもらう。
ソウは、向かいあわせにベッドへ座った。
僕は、この世界のことを知りたくて、『この世界が本当に異世界なのか』をかねて、ソウに色々聞くつもりで来た。
とは言え、何から聞こうか。
「ソウっていくつ?」
なにを足掛かりにしていいのか分からず、ついつい個人的なことを聞いてしまった。
「15だけど」
不意をつかれた。
会ってから、ずっと10歳くらいとしか思ってなかったので、僕と一つしか歳がかわらないと言うのは、まあまあ衝撃だった。
頬のうちの肉を軽く噛んでこらえているが、僕の鼻からこらえきれない分の、笑いの息がもれる。
ソウには完全に勘づかれていた。
ソウの顔は笑顔だけど、10歳にしてはしっかりしたパンチを胸にもらった。
ちがう、15歳らしいしっかりしたパンチだった。
僕は引きつづき笑いをこらえながら、「ごめん」と謝る。
だけど、このやり取りのお陰で、距離が縮まった気がした。
まあ、そう思ってるのは僕だけだろう。
ソウからも、ソレさんからも、最初から壁らしい壁を感じない。
距離を取っているとしたら、こっちだ。
ソウが僕の胸にパンチしたのは、ソウの個人的な劣等感からじゃ、ないんじゃないか。
多分ハーフリングに対して、子供っぽいとか、小さいとか、そう言うニュアンスのものは失礼なんじゃないかって、予感している。
そうやって、他種族から侮辱をうけてきたんだろうって。
そう言えば、ハーフリングとエルフ以外の種族はいるのだろうか?
『この世界に、何がいるのか、何があるのか』で、この世界の世界像をつかみたいと思った。
けれどそのまえに、年齢の流れで、ひとつ聞きたいことがある。
「昼間いっしょにいたエルフの女の子は何歳なの?」
「ハア?ハアは、いっこ上だよ」
来たっ!
いや、なにも来てないのだけど。
好みの異性とは、たとえば同じ音楽が好きって言うだけで、つき合えそうな錯覚におちいる。
それと同類の、偏差値の低い『来た』だ。
ハアって言う名前なのか···あの娘。
「同い年か」
と僕はもらした。
「サアも16歳?」
「もうすぐ17になるけど」
ハアのことを、もっと聞きたかったけれど、名前もわかったし、これ以上詮索するのは昼間にも発揮した僕の自意識が許してくれない。
この世界のことを聞くという、もとの目的にもどろう。
「ソウ、この世界のことをおしえて」
「いいよっ。う~んと、何から話そう‥う~ん、なに聞きたい?」
そうだよな。
食後の会話で、僕がちがう世界からやって来たのに、なぜエルフを知っていたのかは、僕の世界の物語に出てくるからだと説明してある。
僕が何を知っていて、何を知らないか分からないと、そうなるのは当然だよな。
そこで僕は、
「ドワーフっているの?」
と聞いた。
「いるよ」
と、返ってきた。
ハーフリング、エルフと来たら、ドワーフだろうって、思った。
エルフを知っていたのだから、ドワーフの存在を言い当てても、ソウは驚かない。
「オークは?」
「いるよ」
やはり。
「トロルとか、ゴブリンは?」
「トロルはいるけど、ゴブリンってなに?」
ゴブリンはいないのか。
「リザードマンは?」
「なにそれっ!?トカゲ男?気持ち悪いっ」
ソウは胸の前で、両手で爪を立てるようなポーズをしながら、舌を出したり引っこめたりしている。
彼なりの、トカゲ男のイメージだろうw
「コボルトは?」
「コーボルト?いるよ。」
犬人間いるのかっ!
一番見てみたいかも。
犬種は色々いるのだろうか。
テンションが上がったところで、あれをいってみよう。
中二的センスと、言われるかも知れないが、ぜひ見てみたいカッコいいやつが、いる。
こいつだ。
「じゃあグリフォンは?」
「なにそれ?」
マジかっ。
僕の憧憬は、あっさり裏切られた。
しかたない、ドラゴンで手を打とう。
「ドラゴンは?」
「いるよ、見たことないけど」
よしっ。
でも見たことないのか。
見てみたいなあ。
しかし実際、ドラゴンなんか見ることになったら、滅茶苦茶あぶないんだろう。
ましてや乗ってみたいなんて、この世界をまだ自分の世界から覗くファンタジーあつかいしている、お花畑な考えなんだろうな。
こんな調子で僕の質問はつづいた。
この夜の話は『この世界に何が居るか?』に、終始した。
ソウが眠そうなので、いい加減にして部屋に帰ることにする。
客間へもどって、ベッドに腰かけて、そのまま上体をバタっと後ろへたおす。
さあ、さて。
マンガ、ゲーム、ライトノベルから得た知識と、それらが好きで高じた調べもので得た知識を、ソウの答えと照らしあわせて僕は頭を整理した。
多分この世界は、北欧神話がベースになってる。
神話か····
この世界に神様はいるのだろうか?
異世界に飛ばされるくらいなんだから、神様がいてもおかしくないよな。
明日、ソウに聞いてみよう。
頭の整理が一段落すると、それまで意識を素通りしていた『こつん こつん こつん』という、小さな音が耳についた。
音のほうに目をやると、机の上のオイルランプのガラスに、蛾が体当たりをしている。
僕の世界にいるモノと変わりのない蛾。
この世界でも、蛾は灯りにむかって、体当たりをくり返すのか。
何となく寄る辺のないその様子は、異世界にいる自分とかさなった。
ランプの火を吹き消して、光から蛾を解放する。
暗くしたら、すんなり眠気がおとずれて、僕は眠りにおちた。
〈つづく〉
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